新版 バブルの物語(3 チューリップ狂、ジョン・ローとロワイヤル銀行)

ジョン・ケネス・ガルブレイス (著), 鈴木 哲太郎 (翻訳) 2008年12月19日


○ 大衆的幻想とチューリップの球根
 特に関心が集中するようになったのは、チューリップのうちでも特に凝った品種を所有して展示することであった。そしてこの花のうちでも格段に良いものを観賞することからさらに進んで、その美しさと希少性とに起因する価格上昇がありがたがられるようになった。まさにこの価格上昇のゆえにチューリップが買われるようになり、一六三〇年代の中頃になると、価格上昇には際限がないように思われた。
 われ先に投資しようとする動きがオランダ全体を呑み込んだ。多少なりとも感受性のある人は誰しも、自分だけがとり残されてはならないと思った。価格は途方もなく上昇した。一六三六年になると、それまでたいして価値があるとは思われなかったような一箇の球根が、「新しい馬車一台、葦毛の馬二頭、そして馬具一式」と交換可能なほどになった。
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 チューリップの稀な品種に対する需要は一六三六年に非常に増大した。その結果、それを売るための常設の市場がアムステルダムの株式市場に設けられたほか、ロッテルダム、ハルレム、ライデン、アルクマール、ホールン、その他の町でも常設市場ができた。
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 誰しもチューリップ熱は永久に続くだろうと思った。そして、世界中のあらゆる所から金持ちがオランダへ注文をだし、どんな言い値でも支払いをするだろうと考えた。ヨーロッパの富はゾイデル海の沿岸に集まり、恵まれたオランダの地域から貧困は追放されるだろうと思った。貴族、市民、農民、職人、水夫、従僕、女中、さらには煙突掃除夫や古着屋のおばさんまでがチューリップに手を出した。あらゆる階層の人々がその財産を現金に換え、それをこの花に投資した。土地・建物はとんでもない安値で売りに出され、あるいはまたチューリップ市場でなされた取引の支払いのために譲渡された。
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 価格が上昇するごとに、より多くの人が投機へ参入する気になった。このことがまた、すでに投機へ参加している人の希望を正当化し、彼らが更に買い進んで価格が上昇する道を拓き、いっそうの致富が際限なく続くことを保証した。買うために借金がおこなわれた。

 一六三七年に終末が訪れた。ここでも一般法則どおり事態が進行した。どういう理由かわからないが、賢明な人や神経質な人が手を引き始めた。彼らが去っていくのが他の人々にわかった。殺到した売りはパニックとなった。価格は断崖を滑り落ちるように暴落した。それまで買っていた人は、その多くが資産を担保に借金していた - これが「てこ」である - のであるが、突然無一文無になり、または破産した。
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 チューリップ価格の暴落とそれによる貧困化は、その後のオランダ経済に深刻な影響を与えた。すなわち、今日の用語でいえば、長期にわたるかなりの程度の不況が続いたのである。これをやわらげる事情が一つだけあった。それはオランダでチューリップの栽培が継続されたことであって、チューリップの花と球根の市場が広く発展することとなった。
(3 チューリップ狂、ジョン・ローとロワイヤル銀行)

 









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