ウォール街のランダム・ウォーカー(第1章 株式市場の二大流派)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日

  目 次
 第1章 株市投資の二大流派
  1.ランダム・ウォークとは何か
  2.生活の一部になった株式投資
  3.将来を予測する能力
  4.ファンダメンタル価値学派
  5.砂上の楼閣学派
  6.ランダム・ウォークの実践
 第2章 市場の狂気
  1.オランダのチューリップ・バブル
  2.イギリスの南海バブル
  3.一九二〇年代にウォール街が育んだバブル
 第3章 株価はこうして作られる
  1.機関投資家の健全度
  2.黄金の六〇年代
  3.低迷の七〇年代
  4.狂乱の八〇年代
  5.思い上がりの九〇年代
 第4章 史上最大のバブル
  1.インターネット・バブルはいかに膨らんだか
  2.広い裾野を持ったハイテク・バブル
  3.未曾有の新規公開株ブーム
  4.証券アナリストも謳い上げた
  5.新しい株価評価尺度
  6.メディアの責任
  7.バブルの息の根を止めた不正の横行
  8.危機は予知できたか
 第5章 株価分析の二つの手法
  1.テクニカル分析とファンダメンタル分析
  2.チャートは何を語るか
  3.“いかに”動くかが重要だ
  4.チャート分析はなぜうまくいかないのか
  5.その名も今やテクニカル・アナリスト
  6.ファンダメタル主義者の“聖なる霊感”
  7.「正しい」株価収益率
  8.なぜファンダメンタル分析も必ずしもうまくいかないのか
  9.成功するための三つのルール
 第6章 テクニカル戦略は儲かるか
  1.穴のあいた靴と予想の曖昧さ
  2.株式市場にモメンタムは存在するか
  3.ランダムなコイン投げが描くチャート
  4.より精巧なテクニカル手法の診断
  5.損失を約束するその他の様々なテクニック
  6.テクニカル・マーケットの教祖たち
  7.それでもテクニカル・アナリストは雇われ続ける
  8.「学者のたわごと」という反撃に応えて
  9.投資家への示唆
 第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見
  1.ウォール街 VS.学者
  2.証券アナリストは占い師のようなものか
  3.なぜ水晶玉は曇ってしまったのか
  4.投資信託の意外な成績
  5.効果的な銘柄選択はできるのか
  6.誰がマーケット・タイミング戦略で成功したか
  7.セミストロング型かストロング型か
  8.中間の立場
 第8章 新しいジョギング・シューズ
  1.リスクこそ株式の価値を決める
  2.ではリスクとは具体的に何を意味するのか
  3.ハイリスク、ハイリターンの検証
  4.リスクを減らす学問
  5.相関係数のマジック
  6.分散投資という豊かな鉱脈
 第9章 リスクをとってリターンを高める
  1.「ベータ」の福音
  2.CAPM旋風
  3.実績を見よう
  4.ベータの「死亡宣告」
  5.より完全なリスク尺度はあるか
 第10章 行動ファイナンス学派の新たな挑戦
  1.個人投資家の非合理的な投資の解明
  2.行動ファイナンス理論から得られる教訓
 第11章 効率的市場理論に対する攻撃はなぜ的外れなのか
  1.効率的市場の定義
  2.的外れな効率的市場理論への反証
  3.より高度な効率的市場理論への反証
  4.なぜプロですら的を外すのか
  5.そして勝者は
 第12章 インフレと金融資産のリターン
  1.何が株式と債券のリターンを決めるのか
  2.時代区分でみた金融資産のリターン
  3.二一世紀はどうなるか
 第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略
  1.リスクとリターンは正比例する
  2.リスクは投資期間に依存する
  3.ドル・コスト平均法はリスクを効率的に軽減する
  4.リバランスによってリスクを減らしリターンを高める
  5.リスク選考とリスク許容度を区別する
  6.投資家のライフサイクルと投資戦略
  7.ライフサイクルに合わせた投資の手引
 第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ
  1.思考停止型の歩き方 - インデックス・ファンドを買う
  2.手作り型の歩き方 - 有望銘柄を自分で探す
  3.人に任せるタイプの歩き方 - 専門家を雇うべし
  4.マルキール・ステップがすたれた理由
  5.投資アドバイザーのジレンマ
  6.ランダム・ウォーク旅の終わりに

 「弟1章 株式投資の二大流派」では、ファンダメンタル価値学派と砂上の楼閣学派のそれぞれの違いについて述べている。例えば、ファンダメンタル価値学派は絶対的な価値に着目する、砂上の楼閣学派は群集心理の市場形成に着目する、といった具合である。

 「弟2章 市場の狂気」では、オランダで起こったチューリップバブル、イギリスで起こった南海バブル、1920年代にアメリカニューヨークで起こった株式バブルについて紹介している。いずれも、大衆がバブルに夢中になり、そして暴落が起こって人々はパニックになる。

 「第3章 株価はこうして作られる」では、アメリカで起こったトロニクス・ブーム、コングロ・ブーム、ニフティ・フィフティブーム、バイオテクノロジー株ブーム、そして90年代の日本の地価高騰と株式バブルなどについて紹介している。

 「第4章 史上最大のバブル」では、インターネットバブルについて紹介している。当時、インターネットバブルに便乗してインターネットとは何の関係もない企業が、ドット・コム、ドット・ネット、インターネットといった、いかにも関連がありそうな社名に変更しただけで株価が倍以上になった事例や、インチキくさい新興企業が現れたことなど、様々な事例が挙げられている。

 「第5章 株価分析の二つの手法」では、株価予想を行うために人々はテクニカル分析かファンダメンタル分析のいずれかを用い、その手法について述べている。テクニカル波は他のプレーヤーが将来どう動くかを予測し、ファンダメンタルズ派は株式の適正価値に注目する。例えば、テクニカル分析派は将来の企業業績などあらゆる情報はすでに株価に織り込まれているので株価はトレンドを持って動く傾向があり、集団心理や情報の入手能力に着目して儲ける手法だとあげている。
 また、ファンダメンタル分析派は今現在つけられている株価と、その本質的価値とを比べ、企業の将来利益や配当を予想することで儲ける手法だとあげている。

 「第6章 テクニカル戦略は儲かるか」では、テクニカル信者は過去の株価の分析を行うことで、そこにモメンタムのような法則性を見出すことを信念とする。その手法としてフィルター法、ダウ理論、株価-出来高法、さらにはスカート丈指標、スーパー・ボウル指標などを用いる。しかし、いずれも将来の株価の動きを予想する上では役に立たず、単純なバイ・アンド・ホールド戦略に勝ることができないと結論づけている。

 「第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見」では、証券アナリストの利益予想が当てにならないことについて述べている。その要因として(1)ランダムに発生する事件の影響、(2)「クリエイティブ」な会計手法を通じたいかがわしい利益の捻出、(3)多くのアナリストに見られる基本的能力の欠如、(4)セールス活動による拘束と運用部門への人材流出、(5)大手証券会社における証券アナリスト業務と投資銀行業務との間の利益相反の存在という5つを挙げている。

 「第8章 新しいジョギング・シューズ」では、投資のリスクとリターンの関係を標準偏差分布で述べている。データから検証した結果、長い期間で見た場合、株式の総リターンは他の金融資産よりも上回っているが、同時にマイナスにも変動する。
 しかし、それは高いリスクを伴った結果、高いリターンが生まれたということを主張している。また、分散投資のメリットについて難解な数学を用いずに、リゾート企業と傘メーカーの業績の相反関係でわかりやすく説明している。他にも、外国株式や不動産を組み合わせた分散投資の有効性についても説明している。

 「第9章 リスクとリターンを高める」では、市場全体の要因と関係するシステマティック・リスクと個別企業特有の要因と関係する非システマティック・リスクの関係について述べている。
 また、リスクの高い銘柄だけのポートフォリオを組んでも、リスクの低い銘柄だけのポートフォリオを組んでも、非システマティック・リスクは互いに相殺されるため、残りのシステマティック・リスクが残り、結果として総リスクは同じであるとことについても言及した内容になっている。

 「第10章 行動ファイナンス学派の新たな挑戦」では、人々は必ずしも合理的ではなく、むしろ不合理であるという行動ファイナンスについて述べている。行動ファイナス学派によれば、投資家の非合理的な行動は(1)自信過剰、(2)偏った判断、(3)群れの心理、(4)損失回避願望の4つの要因からなり、それぞれについて解説されている。また、そのような非合理的な行動に陥らないためのアドバイスについても触れている。

 「第11章 効率的市場理論に対する攻撃はなぜ的外れなのか」では、市場の効率性やその他の要因に基づき、ダウの負け犬戦略、一月効果、月曜効果、ホット・ニュース仮説などの様々な戦略について検証している。

 「第12章 インフレと金融資産のリターン」では、1946年から2000年までのアメリカ経済の歴史を振り返り、債券と株式がもたらしたリターンの関係について解説されている。

 「第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略」では、投資家の年齢やリスクの許容度など各人の属性に基づき、4つの要因(リスクとリターンの関係、投資期間、ドル・コスト平均法、リバランス)から資産(債券や株、不動産など)のポートフォリオの構成について提案している。さらに、老後生活の資金運用方法についても触れている。

 「第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ」では、致命的な失敗やリターンを上げるのに役立つ株式投資の基本ルールを紹介している。安全志向で投資を行いたい人はインデックス・ファンドに投資し、積極的に投資を行いたい人は成長が期待でき、相対的に株価収益率が低い有望株に投資を行う、投資信託を買いたい人は、この章で紹介されている投資信託を選ぶといった具合である。

1. ランダム・ウォークとは何か
  ※ サルにもできる株式投資
 ランダム・ウォークというのは、「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能である」ということを意味する言葉である。これを株式市場に当てはめると、株価が短期的にどの方向に変化するかを予測するのは、難しいということだ。言い換えれば、専門の投資顧問サービスや証券アナリストの収益予測、複雑なチャートのパターン分析などを用いても、無駄だということである。
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 ランダム・ウォークを突きつめていけば、目隠しをしたサルに新聞の相場欄めがけてダーツを投げさせ、それで選んだ銘柄でポートフォリオを組んでも、専門家が注意深く選んだポートフォリオとさほど変わらぬ運用生成を上げられることを意味するからだ。
(第1章 株式投資の二大流派)

2.生活の一部になった株式投資
  ※ 「投資」と「投機」の違い
 投機家は二、三日あるいは二、三週間の間に大儲けすることを狙って株式を取得する。これに対して投資家は、何年、あるいは何十年先まで安定的に配当をもたらし、あるいは持続的値上がりが期待できるような株式を探して保有するのだ。
 一晩で大金持ちになることを狙うような人たちは、これを読んでも無駄である。実際、この本にもし副題をつけるとすれば、それは「ゆっくりと、しかし確実に金持ちになる本」というようなものであろう。
(第1章 株式投資の二大流派)

4.ファンダメンタル価値学派
  ※ 一年後の一ドルは今いくらの価値があるか
 ファンダメンタル価値学派は、投資対象が普通株であれ不動産であれ、「ファンダメンタル(本質)価値」と呼ばれる絶対的な価値があり、それは現状分析と将来予測を注意深く行うことによって推定できる、と主張する。そして、資産の市場価値がこのファンダメンタル価値を下回れば購入し、上回れば売却するチャンスだと考える。なぜなら、この理論によれば、この一時的な割安・割高な状態は、いずれ修正されるからである。このアプローチによれば、投資というのはやや退屈だが、きわめて単純明快な作業である。要するに、あるものの現在の市場価値を、それが本来あるべき本質価値と比較してみるだけでよい、ということになる。
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  ※ 配当の成長率の差に注目
 グレアムとドットの教えを忠実に実践して最も輝かしい成功を収めた生徒は、「オハマの賢人」と称えられる慧眼の投資家、ウォーレン・バフェットであろう。バフェットは伝説的な投資成果を長期間上げ続けてきたが、それは「ファンダメンタル価値」理論を忠実に実践してきた結果だと信じられている。
(第1章 株式投資の二大流派)

5.砂上の楼閣学派
  ※ 心理的要素を重視
 著名な経済学者であり、投資家としても並はずれた成功を収めたケインズは、一九三六年にこの理論の本質を、この上なく明快な形で表現した。ケインズによれば、プロの投資家というのは本質価値を見出すためにではなく、一般投資家がどのように行動し、強気が支配する相場の局面で、希望的観測がどのように砂上の楼閣を作り上げるかを分析することに、エネルギーを費やす。つまり、優れた投資家とは、どのような市場の状況が大衆の砂上の楼閣づくりを引き起こすかを探り当て、一般投資家が気づく前に投資することで、ゲームに勝とうとするのである。
 ケインズによれば、ファンダメンタル価値学派のアプローチは、やることが多すぎるわりには、その効果が疑わしい。実際、ケインズは自分が唱えたアプローチを実践に移した。すなわち、シティのプロたちが一日中混雑したオフィスで汗を流して仕事をしているというのに、彼は毎朝、ベッドの中で三〇分だけ株式市場のことを考えたと言われている。この優雅な投資法によって、自分の資産を何百万ポンドも増やし、また母校ケンブリッジのキングズ・カレッジのファンドマネジャーとして、その基金を何百万ポンドも増やしたのである。
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 ケインズは、企業の将来の収益見通しや配当がどうなるかは、誰にも正確にはわからないと主張する。その結果、ほとんどの投資家は、金融資産を長期間保有した場合にもたらされるであろうリターンを正確に予測しようなどとは考えずに、一般投資家よりもほんの少し早く、株価水準の変化を予測するほうに関心を持つというのである。別の言い方をすれば、ケインズは株式市場を考えるよりどころとして、金融資産評価の視点ではなく、群集心理の原理を重視したのである。
 彼はまた、「そのもたらす期待リターンから見れば、三〇ポンドの価値があると考えられる投資対象でも、その市場価値が二〇ポンドに下がるとわかっているなら、それに二五ポンドも払うのは全く馬鹿げたことだ」とも書いている。

  ※ ケインズの「美人投票」論
 ケインズは当時のイギリス市民なら誰でも理解できるとたとえで、株式投資の本質を説明した。それがかの有名な「新聞紙上美人コンテスト」である。
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 この美人投票に勝つためには、読者個人の美的基準は全く無関係なことに気づくだろう。この場合のより優れた投票戦略は、むしろ他の読者たちが美人と思う顔のほうを選ぶことである。
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 この紙上美人コンテストのアナロジーは株価形成に関する砂上の楼閣学派の考え方を端的に示している。買い手が支払ったよりも高い価格で、他の誰かにそれを売りつけることができる見通しが立てば、どんな投資でもそれなりに意味を持つのだ。
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 この理論は、もう少し残酷な言い方をすれば、「より馬鹿」理論とでも呼ぶことができよう。たとえ本質価値の三倍の値をつけても、もし誰かあなたより愚かな人を見つけて五倍で売りつけられるとすれば、何の問題もない。
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 ロバート・シラーはベストセラーになった『投機バブル 根拠なき熱狂』の中で、一九九〇年代末に膨れ上がったインターネット・ハイテク・バブルは、群集心理現象として見ない限り説明がつかないと述べている。
(第1章 株式投資の二大流派)

 









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