ウォール街のランダム・ウォーカー(第5章 株価分析の二つの手法)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日


1.テクニカル分析とファンダメンタル分析
 将来の株価動向を正確に予測し、売り買いの的確なタイミングをつかもうと、人々は絶え間ない努力を重ねてきた。金の卵を求めて、人々は科学的なものから、はたまたオカルト的なものまで、多様な分析手法を編み出してきた。今日では、太陽の黒点を数えたり、月の満ち欠けを観測したり、あるいはサン・アンドレアス活断層の震度を調べたりと、株価予想の手法は実に多彩である。しかし、大多数の人は、次の二つの手法、すなわちテクニカル分析とファンダメンタル分析のいずれかを用いるのが普通だ。
 テクニカル分析は、砂上の楼閣理論に基づいて的確な売り買いのタイミングを予想しようとするものである。そして、ファンダメンタル分析は、ファンダメンタル価値理論を銘柄選択に生かそうとするものである。
  ・
  ・
  ・
 チャーティストの信ずるところによれば、株価の動きのうち、合理的に説明のつく部分はせいぜい一〇%くらいで、残り九〇%は心理的な要因によるものである。彼らは、一般に砂上の楼閣学派に属し、投資のゲームに勝つコツは、他のプレーヤーたちの行動を読むことだと考えている。もちろん、チャートに示されたものは、他のプレーヤーたちの過去の行動にすぎない。しかし、それを注意深く観察すれば、彼らが将来どう動こうとしているのかを知ることができるのではないかとチャーティストたちは考えている。
 一方、ファンダメンタル・アナリストたちはその対極に位置する。彼らは株価の動きの九〇%は合理的なものであり、心理的な要因によるところは一〇%にすぎないと主張する。ファンダメンタル主義者にとっては過去の株価パターンなどはどうでもよく、その関心はひとえに株式の適正価値はいくらかということだけに向けられる。
(第5章 株価分析の二つの手法)

2.チャートとは何を語るのか
 テクニカル分析における第一原理は、利益や配当、あるいは将来の企業業績などに関するあらゆる情報は、過去の株価にすべて反映されているというものである。言い換えれば、株価や出来高を記したチャートは、証券アナリストが知りたいと望むファンダメンタル情報をすべに含んでいるというわけだ。第二原理は、株価はトレンドを持って動く傾向があるというものである。これは、上昇トレンドにある株は上昇を続ける傾向があり、同じ水準に停滞している株はなかなか動こうとしない、と言い換えてもかまわない。
(第5章 株価分析の二つの手法)

3.“いかに”動くかが重要だ
  ※ 歴史は繰り返す
 テクニカル分析の根拠として、多分、次の二つの理由のいずれかがあげられるのではなかろうか。
 第一は、群集心理における集団形成本能がその理由だとする説である。投資家がもし投機の対象として魅力的な株が、上昇に上昇を続けるのを見たらどうだろうか。彼らは一緒に神輿(みこし)を担いで、上昇相場に参加したいと思うのではないだろうか。株価の上昇そのものが、熱狂の火に油を注ぐことになり、結果的に予言が自己実現してしまうのだ。株価が上がるごとに投資家の欲望はさらに膨らみ、彼らは一層の上昇を期待する。
 第二は、市場参加者間に企業のファンダメンタル情報の入手能力に差があり、それが理由だとする説である。まず何か好材料につながることが起きたとしよう。例えば、豊富な鉱脈が見つかったという場合、インサイダーがまず最初にこのニュースを入手し、株を購入するだろう。こうして株価は上昇を始める。次に、インサイダーは彼らの友人にそのニュースを伝え、友人たちが第二の買い手となる。やがて、そのニュースは市場のプロの知るところとなり、大手の機関投資家がその銘柄を彼らのポートフォリオに組み入れることになる。最後に、あなたや私のように無知な素人がその情報を入手し、買いに加わり、株価をさらに押し上げる。
(第5章 株価分析の二つの手法)

6.ファンダメンタル主義者の“聖なる霊感”
 ファンダメンタル主義者は、市場における強気や弱気といった群集心理に惑わされることがないように努め、今現在つけられている株価と、その本質価値とを明確に区別するのである。
 証券のファンダメンタル価値を推定する際に最も重要な作業は、その企業の将来における利益や配当を予測することである。
 ファンダメンタル・アナリストは、その企業の売上水準や営業費用、法人税率、減価償却の方法、あるいは資金調達の源泉とそのコストなど、様々な要素を推定しなければならない。
(第5章 株価分析の二つの手法)

7.「正しい」株価収益率
 多くの企業について証券アナリストが示す長期成長率とその持続期間に対して絶対的な信頼を置く傾向がある。
  ・
  ・
  ・
 将来を予測するためにいかなる公式を用いようとも、その公式のよって立つ土台はそんなに盤石なものではないということだ。多くのウォール街の専門家たちがどんなに胸を張って将来を予測できると言おうとも、彼らとて、私たちと同じように間違いを犯す人間なのである。
  ・
  ・
  ・
 例えば一九六〇年代の初めや、七〇年代のように、将来に対する見通しが特に強気であった時期には、市場は高い期待成長率を待つ株にはきわめて高い株価をつけた。しかし、逆の時期、例えば八〇年代の後半から九〇年代初めにかけては、高成長株といえども市場平均の株価収益率よりも、ほんのわずか高く買われただけだった。
 これに対して二〇〇〇年の初めには、ナスダック一〇〇指数を構成する代表的な成長銘柄の平均株価収益率は、一〇〇倍以上になっていた。このように「成長期待」自体も、多くの投資家が高い授業料を払って学んだように、チューリップの球根同様、はやりすたりがあるのだ。
(第5章 株価分析の二つの手法)

8.なぜファンダメンタル分析も必ずしもうまくいかないのか
 この種の分析には以下のような三つの問題点がある。まず第一は、情報や分析が必ずしも正しいとは限らないという点である。第二に、「価値」の推定を間違う可能性が指摘できる。そして第三に、市場も必ずしも自分の「間違い」を速やかに訂正するとは限らないこと、すなわち株価が必ずしも本来あるべき値段にサヤ寄せされないことがしばしばあることも、忘れてはなるまい。
  ・
  ・
  ・
 市場の平均株価収益率は時として急激に変化する。そればかりか、成長に対してつけられたプレミアムもまた、劇的な変化を示すことがあるのだ。したがって、ファンダメンタル分析も絶対ではないことを肝に銘ずべきなのである。
(第5章 株価分析の二つの手法)

9.成功するための三つのルール
 株価投資で成功するための最も重要な要素をただ一つあげろと言われれば、それは長期の利益成長率であろう。GE、グーグルをはじめ、これまで真に傑出したパォーマンスを上げた銘柄は、実質的にはすべて成長株であった。
 成長株を見つけ出すのは非常に困難な仕事である。しかし、それこそが投資家にとって最も重要なポイントなのである。継続的な成長は、利益と配当の増加をもたらすだけでなく、その銘柄の株価収益率も上昇させるだろう。
  ・
  ・
  ・
 ある銘柄の成長性が広く市場に認識されるようになると、その銘柄には他の平凡な株に比べてプレミアムがつけられ、高い株価収益率で取引されることになる。これが俗に「成長株」と呼ばれるわけだが、この手の株式への投資には特別なリスクが存在する。
 問題は、非常に高い株価収益率のつけられた株価には、すでにその成長が完全に織り込まれているということだ。そのような状況で、もし予想が実現せず、実際には利益が減少することになったら、あるいは減少とまで言わないまでも、単に予想より低い成長率に終わりそうだというだけでも、それは投資家に非常に不愉快な結果をもたらすに違いない。
  ・
  ・
  ・
 私が提案したい戦略は、市場にまだあまり知られておらず、株価収益率が市場よりも極端に高くなっていないような成長株に投資するということである。もちろん、成長率を予想することは非常に難しい。しかし、株価収益率が低ければ、もし予想が間違っても利益が減少したとしても、損失はそれに対応したものにとどまるだろうし、反対に予想が実現すれば、利益は二重になるだろう。これはかなり有利な賭け方ではないだろうか。
 マゼランファンドの運用で名を残し、今は引退したあのピーター・リンチは、ファンドマネジャーとして駆け出しの頃、このアプローチを巧みに駆使して大成功した。彼は組み入れ候補銘柄の期待成長率対株価収益率の比率をはじいて、成長可能性の割に株価収益率が低いものだけに投資したのである。
  ・
  ・
  ・
 「成長が期待でき、かつ低PERの銘柄を探そう。もし成長が実現したら、利益成長と株価収益率の上昇による二重のボーナスが得られるため、大きな利益をもたらすだろう。将来の成長がすでに織り込みずみの高PER株には気をつけよう。もし成長が実現しなければ、利益の減少と株価収益率の低下で二重の損失を被るからだ」

 個人であれ機関投資家であれ、彼らは与えられた数値をもとに自動的に妥当な株価収益率を計算し、売り買いの判断をプリントアウトするコンピュータではない。欲望やギャンブル本能、自ら下した相場判断の適否に対する願望や不安に動かされる生身の人間なのだ。それゆえ、投資の世界で成功するためには、知性と感性の両方ともが研ぎ澄まされていなければならない。
 投資家に「受けがよい」銘柄は、たとえその成長率が並の水準にすぎなくても、長期間にわたって高い株価収益率で取引されることがある。反対に、投資家に受けが悪い銘柄は、成長率が平均を上回っていたとしても、長期間にわたり低い株価収益率のまま放置され続けるかもしれない。
 株式はきわめて人間的な側面を持っている。ある人にとって刺激的な事件でも、他の人の興味を引き起こさなかったりするものだ。
  ・
  ・
  ・
 第三のルールとして私が主張したいことは、あなたの購入した銘柄についてストーリーが人々の心をつかめそうかどうか、まず自問せよ、ということである。
 それは、伝染性の夢を生じさせることができる種類のストーリーだろうか。投資家がそれに基づいて砂上の楼閣を作り上げられるストーリーだろうか。その砂上の楼閣は、ファンダメンタルズの基盤に基づいて作られたものだろうか。これらの点をよく吟味しなければならない。
 このルールを実践するために、テクニカル分析を用いる必要はない。その銘柄に関するストーリーが、人々の想像力をつかむことができるか、なかでも機関投資家の気を引くことができるか、それを判断する直観力、あるいは投機のセンスを用いればいいのだ。
(第5章 株価分析の二つの手法)

 









← 第4章                                             第6章 →
トップページ