ウォール街のランダム・ウォーカー(第6章 テクニカル戦略は儲かるのか)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日


1.穴の開いた靴と予想の曖昧さ
 私個人の経験では、失敗したテクニカル信者の成れの果ては何人か知っているが、成功したテクニカル信者というものには、ついぞお目にかかったことがない。
 ところで不思議なことに、文無しになったテクニカル信者は、この道を選んだことを決して後悔したりはしないのだ。それどころか、以前にも増して熱心な信者になるのである。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

2.株式市場にモメンタムは存在するか
 過去の株価の動きを分析すれば将来の株価を予想できる、というのがテクニカル信者の信念である。
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 チャーティストたちは、市場にはモメンタムが存在すると信じている。モメンタムとは、上昇し続けてきた銘柄は引き続き上昇するし、下がり始めた銘柄はさらに下がるという傾向のことを言う。
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 このテクニカル・ルールに関しては、徹底的なテストが行われてきた。いくつかの主要取引所を対象に、また二〇世紀初めにまでさかのぼる膨大なデータが、そのために用いられた。過去の株価を分析したところで、将来の株価を予想するのに何の役にも立たないというのが、その結論である。株式市場は記憶というものを持たない。株式市場は時として、「モメンタム」の存在を裏づけるような動きを示すが、それには全く規則性がなく、それを利用して超過リターンを得られるかどうかは、売買コスト差し引き後で見ると、断定的なことは言えないのだ。
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 要するに、先週の株価の動きは今週のそれとほとんど関係がないし、先月の株価変動と今月のそれとの関係も同様だということである。
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 確かに、株価の上昇が数日にわたって連続することは時々見られる現象だが、それは何も特別な現象ではない。たとえ裏表が等しい確率で出るコインを投げたとしても、表が何回も続くことはあるのだ。株価の上昇あるいは下落が連続して起こる頻度は、コイン投げで表や裏の連続が何の規則性もなく起こるのと変わらないと言える。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

3.ランダムなコイン投げが描くチャート
  ※ ギャンブラーにとっての運、不運の波
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 ランダムなコイン上げの結果として描かれたチャートは、通常の株価チャートと驚くほど似ている。
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 株式市場における「サイクル」は、ギャンブラーにとっての運、不運の波と何ら変わりはない。そして、ある銘柄の上昇パターンが、以前の上昇期におけるパターンと同じように見えても、それは現在の上昇が続く長さやその信憑性について、判断を下す材料にはならないのだ。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

4.より精巧なテクニカル手法の診断
  ※ フィルター法
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 フィルター法に基づく投資戦略は、その結果発生する余分な手数料を考慮すると、個々の銘柄にせよ市場平均にせよ、同じ対象に投資したバイ・アンド・ホールド戦略のパフォーマンスを継続的に上回ることはできなかったのである。私個人としては、たとえどんなブローカーが、またどんなフィルター法を勧めたとしても、個人投資家はこれを使用しない方が得策であると考えている。

  ※ ダウ理論
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 ダウ理論は、基本的には、相場が直近のピークより高くなった時に買い、直近のボトムを下回ったときに売るという戦略を意味することになる。この理論には様々なバリエーションがあるが、基本的なアイデアは多数のチャーティストから支持され、チャート数の教理の一部にもなっている。
 残念ながら、ダウ理論のメカニズムが生み出すシグナルは、将来の株価の動き意を予測する上で、何の役にも立たない。
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  ※ 相対強度(レラティブ・ストレングス)法
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 この手法に基づくと、投資家は好調な銘柄、つまり直近期に代表的な市場インデックスを上回るパフォーマンスを上げた銘柄を買って保有することになる。反対に、市場に比べて不調な銘柄は、避けるか、もしくは売り越すことになる。
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 過去二五年間についてコンピュータによるテストを行ったところ、この種の方法は、取引手数料を考慮すると、比較的対象となるバイ・アンド・ホールド戦略を上回るパォーマンスを上げることはできないという結論が得られている。

  ※ 株価 - 出来高法
 ある銘柄が上昇する際、大量の取引を伴ったり、出来高の増加を伴ったりする場合、それは未充足の買い意欲が存在することを意味し、その銘柄はさらに上昇を続けることが予想される。反対に、大量の出来高を伴う下げの場合、売り圧力の存在を示しており、売りのシグナルとなる。これが、株価 - 出来高法の主張である。
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 取引手数料のことを考えに入れると、この手法を用いるよりは、いくつかの銘柄に分散して投資し、後は何もせずに持ち続けた方がいいのだ。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

5.損失を約束するその他の様々なテクニック
  ※ スカート丈指標
 テクニカル・アナリストの中には、株価の観察だけに満足せず、その観察範囲を他の様々な対象にまで広げた者もいた。そうして生まれた数々のアイデアの中でも、アイラ・コブレーが「強気相場とあらわな脚」理論と呼んだものは、最もチャーミングな例だろう。この理論によれば、その年のスカート丈を見れば株価の方向がわかるというのである。一般的に、短いスカートが流行る時には相場は強気であり、逆に相場が低迷する時期には、街で女の子を眺める楽しみも少ないというわけだ。
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  ※ スーパー・ボウル指標
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 スーパー・ボウル指標とは、アメフトのチャンピオンを決めるスーパー・ボウルでどちらのチームが勝つかに基づいて、株式市場のパォーマンスを予測するものである。二〇〇三年のタンパベイ・バッカニアーズのようにNFC(National Football League)所属のチームが勝てば強気相場の到来を意味し、反対にAFC(Ameriacn Football League)所属のチームの勝利は、投資家にとっては悪いニュースとなる。
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  ※ オッド・ロット理論
 投資で成功するには、常に正しい人間の真似をするか、さもなければ、いつも間違う人間と反対のことをするのが一番確実な方法だろう。広く信じられているところによると、「オッド・ロッター」と呼ばれる人々こそ、まさにいつも間違う種類の人間なのである。したがって、この論理によれば、オッド・ロッターが売った時に買い、彼らが買ったときに売るのが成功の秘訣ということになる。
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  ※ 他のいくつかの手法
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 おそらく、株価変動と太陽黒点との関係を本気で信じている人々は、ごくわずかだろう。しかし、あなたはニューヨーク証券取引所の騰落レシオ(下落銘柄数に対する上昇銘柄数の比率)が、市場全体のピークを予見する先行指標になると信じてはいないだろうか。コンピュータによる詳細な研究の答えは「ノー」である。あなたはカラ売りの増大を、強気のシグナル(なぜなら、最終的にはそれらの株は、売り方がポジションをカバーするために買い戻すことになるから)だと思っているのではないだろうか。徹底的なテストの結果は、市場全体にしろ個別銘柄にしろ、そのような関係は全く見られなかった。あなたは、移動平均線(例えば、株価が過去二〇〇日間の平均よりも上にいったら買い、下にいったら売りというような方法)に従えば、大儲けができると考えてはいないだろうか。証券会社に支払う手数料がなければ、そういうこともあるかおしれない!
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

7.それでもテクニカル・アナリストは雇われ続ける
 テクニカル分析手法に関する研究の結果は、すべて驚くほどの共通性を示している。どれ一つとして、比較対象としたバイ・アンド・ホールド戦略のパォーマンスを継続的に上回ることはできなかったのである。テクニカル手法を用いて有効な投資戦略を編み出すことはできない。これがランダム・ウォーク理論の基本的結論である。
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 しかし、証券会社に雇われるチャーティストの人数は、年々増え続けているのが実情である。
 ポイントはこうだ。テクニカル・アナリストの証券会社の収益に対する貢献度は大きい。チャーティストが勧めるテクニカル戦略は必ずと言っていいほど、銘柄間の乗り換え取引を伴うものだ。こういった取引は証券会社に、彼らの血液とも言える手数料収入をもたらす。テクニカル・アナリストは、顧客がヨットを買う手助けにはならないが、取引を作り出す上では大いに助けとなる。おかげで、証券会社の社員はヨットを買うこともできるというわけだ。個人投資家が、この、ある種のペテンに気づくまでは、テクニカル・アナリストの繁栄が続くことだろう。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

8.「学者のたわごと」という反撃に答えて
 利益や配当は株価に影響を与えるし、群集心理もまたしかりである。その豊富な証拠をこれまでのいくつかの章で私たちは見てきた。しかし、たとえ市場が非合理的な群集心理に支配されている時期であろうとも、その変動を近似的にランダム・ウォークとしてとらえることは十分可能なのである。ランダム・ウォークという言葉の語源になったのは、何もない原っぱをふらつき歩く酔っぱらいの動きである。酔っぱらいの動きは全く規則性がなく、予測することもできないのだ。
 さらには、企業に関する新たな重要情報(例えば、鉱山のストライキだとか、大統領の死、等々)もまた、予測不可能である。こうした出来事は、ランダムな間隔で発生する。実際、日々のニュースの内容はランダムであるに違いない。
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 過去を振り返って、どのような種類の株式が最も高いパォーマンスを上げたかを調べるのは難しいことではない。しかし問題は、その手法が他の期間にもうまくいくかどうかである。テクニカル分析を擁護する人々の大半が普通見過ごしていることは、あるテクニカル手法をテストする際には、その手法が考案された時期とは異なる期間のデータを用いて、テストしなければならないということである。
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 論証のために、そのテクニカル・アナリストが、毎年、クリスマスから新年までの間に株価上昇が起こること、いわば年末ラリー効果といったものが存在することを発見したと仮定しよう。
 問題は、一度そのような規則性が市場参加者に知られれば、人々はそれが実際に起こるのを妨げるように行動するだろうということである。したがって、もしある人物がそのような規則性に気付いたとしたら、彼は黙ってその技法を実行に移すだけだろう。なぜなら、そのほうが得られる分け前が多いからだ。真に有効な方法ならば、それを他人と分かち合おうとする動機はどこにもないに違いない。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

9.投資家への示唆
 テクニカル理論は、テクニカル情報を作ったり売ったりする人々と証券会社だけを肥えさせてきた。証券会社がテクニカル・アナリストを雇うのは、彼らの分析が投資家により多くの取引を行わせ、その結果、証券会社により多くの手数料が落ちることを期待するからだ。
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 ミシガン大学のH・ネガット・センバン教授は、一九六〇年代半ばから九〇年代半ばまでの三〇年間に起こった大きな上げ相場の九五%が、この期間の約七五〇〇取引日のうちのたった九〇取引日に起こったことを確かめている。もし全取引日の一%強にすぎない九〇日を外したとすると、株式投資の高い長期平均リターンの大部分は、実現しなかったことになる。
 これが示唆するところは簡単である。もし、過去の株価データが将来の株価を予測するのに何の役にも立たないとしたら、テクニカル分析に基づいて売り買いをする根拠は全くないということになる。単純なバイ・アンド・ホールド戦略は、どのようなテクニカル戦略にも勝るのである。したがって、無価値なテクニカル情報サービスを購読するのはやめ、またチャートに基づいてしょっちゅう売り買いを勧めるような証券会社は避けるのが賢明だろう。
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 したがって、あなたの投資目的に適したポートフォリオに分散投資し、それを単純なバイ・アンド・ホールド戦略によって運用することは、テクニカル手法を用いた時と同等以上のパォーマンスを達成することができるだけでなく、同時に投資費用や売買手数料および税金などの節約にもなるのである。
(第6章 テクニカル戦略は儲かるか)

 









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