ウォール街のランダム・ウォーカー(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日


2.証券アナリストは占い師のようなものか
 インスティテューショナル・インベスター誌によれば、「株価に影響を与える最も重要な要因を一つ上げるなら、それは昔も今も利益予想だ」とされている。
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 同誌はまた次のようにコメントしている。「もし、公表された利益が予想と食い違っていたら、株価は大きく反応するだろう。それは、これまでに幾度となく繰り返されてきたことである。利益こそが株価を決める上で最も重要な要素であることは、今後も変わることはないだろう」
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 これはテクニカル・アナリストの主張と驚くほど似ている。しかし、アナリストたちは、チャートと異なり証券分析は、企業の過去のしっかりした経営実績に裏付けされたものだと自負しているのだ。
 しかし、このような答えは学者の世界では落第である。過去の実績を分析したところで、将来の成長を予想する役には立たないのである。たとえ、あなたが世の中のすべての会社について、一九七〇年から八〇年までの期間に実現された成長率を知っていたとしても、八〇年から九〇年の期間に達成された成長を当てることはできなかったに違いない。同様に、八〇年代の高成長企業についていくら知っていても、それは、九〇年代の高成長企業を見つける助けにはならなかった。
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 一九九〇年代の長期繁栄の時期ですら、毎年安定的に成長率を維持した大企業は八社に一社の割合でしか存在しなかったのだ。そして、二〇〇〇年代に入ってからも高成長を維持した企業となると、一社もなかったのだ。証券アナリストが、長期間一貫して高成長を続ける企業を予見することはできない。なぜなら、そんな企業は存在しないからだ。
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 プロに従った場合と、何の専門知識も必要としない単純な手法を用いた場合の両方を分析し、その結果を比較したのである。実に単純な予想手法が、プロの予想よりもよい結果をもたらすことは、世の中でもそう珍しいことではない。
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  ※ 予想と実績との誤差
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 アナリスト個人の能力差についても新たな発見があった。結局のところ、いかに優れたアナリストであろうと、常に他人よりも優れた予想をできるわけではないということである。もちろん、各年で見ると平均よりもずっとよい成果を収めたアナリストはいた。しかし、その顔ぶれは毎年同じではなかった。ある年に平均以上の予想能力を示したアナリストでも、翌年上位に残ることができるかどうかは五分五分の確率でしかなかったのである。
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 証券アナリストは、業績予想という基本的機能でさえ満足に果たすことができないということである。このような予想を盲目的に信じて銘柄選択を行うような投資家は、思いがけない失望に見舞われることになりかねない。
(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

3.なぜ水晶玉は曇ってしまったのか
 例えば、レントゲン技師の場合、彼らが見過ごす結核患者の数は全患者の三〇%にのぼるという報告もなされている。レントゲン・フィルムの上には病巣がはっきりと現れているにもかかわらず、見落としてしまうのである。
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 重要な点は、どんな分野であれ、専門家の言葉を鵜呑みにしてはならないということだ。世間に出回っているプロの判断というものが、かくも当てにならないものである以上、証券アナリストがその例外ではないとしても別に驚くほどのことではないだろう。
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  ※ ランダムに発生する事件の影響
 おそらく電力会社の業績は非常に安定しており、アナリストの予想が信頼のおける代表的産業と思われているのではなかろうか。しかし、この業界においてもいくつもの予測できない重要な変化が起こり、業績を予測するのが非常に難しくなったのだ。
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 古くは一九七〇年代、そしてここ数年間に見られた国際石油価格の高騰がもたらした燃料費の上昇を、アナリストたちは予想することができなかった。また、九〇年代を通して進行した規制緩和と競争激化の動きが、電力や電信電話業界の収益性を大きく低下させる結果になることも、彼らは予見できなかったのだ。このように、一般に「安定的」と言われる電力会社についてさえ、予想というものはきわめて困難な作業なのである。
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 政府の予算や契約方針、あるいは法律や規制の変更によって、業界や企業の業績は大きく左右される。また、経営の中核を担う人物の死や重要な新製品の開発、欠陥製品の発生、深刻な石油流出事件、工場爆発、テロリストによる攻撃、新規参入や価格戦争の勃発、洪水や台風被害の発生、等々によっても、大きな影響を受けるのだ。企業収益に大きな影響を及ぼす予測不可能な出来事は枚挙に暇がないと言えよう。
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  ※ セールス活動による拘束と運用部門への人材流出
 最高給のアナリストの多くは、証券を分析することによって給料を得ているわけではないからなのだ。彼らの実態は、大きな影響力を持つ機関投資家向けセールスだったり、アナリストを卒業してファンドマネジャーになっていくケースも珍しくない。
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 今世紀に入ると、多くの有能なアナリストたちが引き抜かれて、さらに高い報酬が約束されるポートフォリオ・マネジメントに移っていった。例えばウォール街のアナリストを代表する一人だったバートン・ビッグスは、二〇〇三年にモルガン・スタンレーを辞めて自分でヘッジファンドを設立した。
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  ※ リサーチと投資銀行業務の間の利益相反
 アナリストに課せられた業務上の目標は、雇い主である証券会社のために、できるだけ多くの手数料収入を上げることにある。そして多くの証券会社にとって、ドル箱は投資銀行部門なのだ。
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 新規公開会社やすでに公開している会社の資金調達のための証券発行引受業務(時には一件当たり手数料が数億ドルにもなる)をはじめ、資金調達手段、事業ならびに財務リストラ、M&Aなどに関するアドバイス業務が最大の収益源となった。そのためアナリストには、証券会社のために投資銀行業務を新規開拓し、発展させることが求められるようになってきた。そして、アナリストの給料やボーナスのある部分が投資銀行部門への貢献度によって決まるようになり、それが利益相反問題を引き起こすことになった。
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 この問題に関連した有名になった出来事がある。不動産王ドナルド・トランプの会社がカジノ事業の資金を調達するため、「タジ・マハール」債を発行しようとした時のことだ。「金利が支払われる可能性が低い」として、そのアナリストは債券の引き受けに反対するコメントを出した。激怒したトランプが、「訴えてやる」と証券会社に脅しをかけたため、この勇気あるアナリストは即刻首になってしまったのだ(果たせるかな、タジ・マハール債は債務不履行に陥った)。
 こうした例は枚挙に暇がない。BNPパリバのアナリストは、エンロンを売り推奨したところ解雇されたと主張している。こうした話を聞くにつけ、ほとんどのアナリストが、現在あるいは将来の投資銀行業務の顧客の機嫌を損ねるようなマイナスのコメントを一切放棄してしまったのも頷けよう。この結果、一九九〇年代に入ると、「買い推奨」と「売り推奨」の比率は一〇〇対一にまで広がり、とりわけその傾向は投資銀行業務のウェートの高い大手証券会社に顕著であった。
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 アナリストの投資推奨が収益源の投資銀行業務に毒されていることを示す証拠は、いろいろあがっている。何人もの研究者がアナリストの推奨銘柄の投資パォーマンスを検証している。例えばカリフォルニア大学のブラッド・バーバーは、彼らの「強い買い推奨」銘柄のパォーマンスを調べたところ、全く“悲惨な”結果に終わったことを報告している。実に「強い買い推奨」銘柄は市場平均を月次で三%も下回ったかと思うと、「強い売り推奨」銘柄はなんと月次で平均三.八%も上回っていたのだ。もっとひどい証拠もある。ダートマス大学とコーネル大学の学者の研究によれば、投資銀行部門を持たない証券会社のアナリストの投資推奨は、投資銀行部門を持つところよりも明らかに優れた結果をもたらしているというのだ。また、インベスターズ・ドット・コムが行った調査によると、アナリストを雇っている証券会社が新規公開の主幹事、もしくは副幹事を務めたケースで「買い推奨」に従った投資家は、平均して元本の五〇%以上を失ったことがわかった。結局、リサーチ・アナリストたちは、投資銀行業務で引き受けた株式を強引に売り込むことに対して給料をもらっている。そして彼らは臆面もなく発行企業のゴマをすってきたのだ。
(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

4.投資信託の意外な成績
  ※ 市場平均を下回る
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 平均的な投資信託のパォーマンスは、広く分散投資されたインデックス・ファンドにバイ・アンド・ホールド戦略で投資した場合のパォーマンスを上回ることができなかったのである。
 言い換えれば、長い期間で見ると、プロが運用する投資信託も、ランダムに銘柄を選んで作ったポートフォリオも、パフォーマンスは変わらなかったということだ。特定の短期間をとれば、素晴らしいパォーマンスを達成するファンドもあった。しかし、一般的に優位なパォーマンスは長続きしなかったし、どのファンドが将来どのようなパフォーマンスを上げるのか、全く予想がつかないのだ。
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  ※ 永遠に勝ち続けるわけにはいかない
 毎年出版される投資信託のパフォーマンス・ランキングを見れば、市場を上回る実績を上げたファンドが数多く存在していることがわかるだろう。そして、そのうちのいくつかは市場平均を顕著に上回っている。
 ここでの問題はその継続性である。まさに、過去の利益成長をもとに将来の利益を予想することができないのと同じで、ファンドの過去におけるパォーマンスをもとに将来の結果は予測できないのである。ファンドの運用といえども、ランダムな事象の支配下にあることを忘れてはならない。
(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

6.誰がマーケット・タイミング戦略で成功したか
 投資信託のファンドマネジャーたちは、ほとんどの最近の相場サイクルで現金への配分のタイミングを間違ってきたのだ。投資信託の運用担当者が相場の行方に懸念を抱いていた時(つまり彼らが現金比率を高めている時期)は、市場が底値圏にあった時とほぼ完全に一致していたのである。
 S&P五〇〇指数の推移を見ると、市場は一九七〇年以後、四つの深い谷を経験してきたことがわかる。それは七〇年、七四年、八二年、そして八七年(ブラックマンデー)の直後に当たるが、そのすべてについて投資信託のキャッシュ・ポジションはピーク水準にあった。九〇年代に入っても現金比率の高かった九〇年末は九一年の上昇相場の直前であったし、その次のピークは六年続いた上昇相場の直前であった。二〇〇二年もまたしかりだ。反対に、市場がピークに達した時期には、投資信託の現金比率はほぼ一貫して低水準だった。例えば、現金比率が過去最低水準近くに低下した二〇〇〇年三月は、相場が大きく下落し始める寸前であった。投資信託の運用担当者のマーケット・タイミングを見極める能力がかなりお粗末なものであることは、これ一つとっても明らかだろう。
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 カルガリー大学のリチャード・ウッドワード教授とジェス・チェア教授による研究の結果は、長期投資として株式を保有し続けるほうが、マーケット・タイミングをはかって売買するよりもうまくいくことを示している。なぜなら、強気相場の期間に株式から得られる利益は、弱気相場によって被る損失よりも遥からに大きいからだ。両教授は、マーケット・タイミング型の投資家がバイ・アンド・ホールド型の投資家のパフォーマンスを上回るためには、七〇%の確率でマーケット・タイミングについて正しい判断を下さなければならないとの結論を下しいている。七割もの打率で市場の転換点を当てることのできる人物に、私はついぞお目にかかったことがない。
(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

7.セミストロング型かストロング型か
 株価が新たな情報に対して非常にすばやく反応するがゆえに、それに基づいて継続的に利益を得られる投資家はいないということなのである。重要な新情報は定義的にランダムに発生し、予測不可能なのだ。それはいくら過去のテクニカルな、あるいはファンダメンタルな情報を研究してみても予見できない。
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 したがって、マゼラン・ファンドの運用から引退した直後にピーター・リンチも認め、あのウォーレン・バフェットも言っていることだが、ほとんどの投資家は積極運用タイプの投資信託に投資するよりは、インデックス・ファンドを購入したほうが長期平均的にはより大きく報われるのだ。
(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

8.中間の立場
 心理的要因が株価形成に少なからず影響すること自体、多くの投資家が、現在の株価が必ずしもその本質価値を適切に反映したものだとは考えていないことの証拠と考えることもできる。
 そもそも、投資にかかわるすべての内部情報が、世の中の全員によって瞬時に共有されるなどという状況がありうるのだろうか。私にはそんな日が来るとは思えない。
 確かに、機関投資家たちがフォローしている主要銘柄に関しては、株価が瞬時にすべての情報を織り込むという事態も考えられないことではない。しかし、プロたちによって詳細にフォローされていない何千という小さな会社についても、それが当てはまるものだろうか。
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 与えられた情報をもとに本質価値を求める作業の困難さである。私たちは、株式の価値を決める主な要因が長期の予測成長率と他社より優れた成長が続く期間の二つであることを見てきた。これらを予想することは並大抵のことではない。それを裏返せば、仮に人並以上に優れた知性と判断力を有する人物がいるとすれば、他人よりも優れたパォーマンスを上げる機会は十分にあるということを意味している。
 私はプロの投資家が優れたパフォーマンスを上げる可能性はあると信じている。しかし、彼らにそれを実現するだけの力量があるかどうかは全く別問題である。
(第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見)

 









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