ウォール街のランダム・ウォーカー(第8章 新しいジョギング・シューズ)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日


1.リスクこそ株式の価値を決める
 効率的市場論は、相場はランダム・ウォークすると主張する。つまり、株式市場は新しい情報を速やかに織り込む能力に長けているため、誰も他人以上にうまく市場の先行きを予測することはできないと言うのである。多数のプロがより高いリターンを上げようとする結果、すべての新しい材料がたちどころに個別銘柄の株価に織り込まれる。したがって、魅力的な銘柄を選び当て、あるいは市場全体の先行きを予測できる確率は、よくて五分五分なのである。
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 リスクこそ、そしてリスクのみが、どの銘柄のリターンがどの程度市場平均を上回るのかを決め、株式の価値を決めるのだ、と。
(第8章 新しいジョギング・シューズ)

2.ではリスクとは具体的に何を意味するのか
 投資のリスクとは、具体的には証券(債券や株式)の期待リターンが実現しない可能性であり、特に値下がりの可能性の大きさであると言える。
(第8章 新しいジョギング・シューズ)

3.ハイリスク・ハイリターンの検証
 株式の総リターンは、配当収入と値上がり益(キャピタルゲイン)から構成されるが、その平均は長期社債、財務省証券、あるいは消費者物価の年間上昇率で測ったインフレ率を大きく上回っている。したがって、株式の「実質」リターン、すなわちインフレの影響を除いた後のリターンがプラスになる傾向があると言える。
 株式のリターンはまた非常に大きく変動することがわかる。株式のリターンの範囲は、五〇%以上のプラス(一九三三年)から、それとほとんど同程度のマイナス(一九三一年)にまでわたっている。明らかに、投資家が株式から得る高リターンは、非常に高いリスクをとる代償として生まれているのである。また、小型株は一九二六年以降、全株式平均よりもさらに高いリターンを生んでいるが、これらのリターンの散らばり(標準偏差)も、全株式平均より高くなっていることに注意していただきたい。ここでも、より高いリスクを伴ってより高いリターンが生まれていることがわかる。
 株式が実際にマイナスのリターンを五年以上にわたって生んだ期間がいくつかある。一九三〇年代前半にも平均リターンはマイナスになった。八七年一〇月に平均株価が三分の一も下落したのは、三〇年代以降に起こった短期間の株価変動としては最も劇的なものであった。また、新しい世紀の最初の二~三年の株式投資のリターンがひどいものであったことは、多くの人が骨身にしみて思い知った。しかし、こうした出来事にもかかわらず、長期的には株価は上昇を続けたため、投資家はより大きなリスクをとることによって、より高いリターンを得てきたのである。しかし、リターンの目標が与えられた時に、リターンを犠牲にせずにリスクを低下させる方法がる。これこそが現代ポートフォリオ理論の主要なテーマであり、それはプロの株式投資に対する考え方に革命的な変化をもたらしたのである。
(第8章 新しいジョギング・シューズ)

4.リスクを減らす学問
 すべての投資家は、同じ条件ならリターンはより高く、また結果が保証されるほうを好むというのだ。この理論はまた、リターンの目標が与えられた時に、株式をどのように組み込めばポートフォリオのリスクが最小になるかを教えてくれる。リスクを低下させたい人間にとって、分散投資が賢明な戦略であるという昔からの格言を、数学的に厳密な形で裏づけるものなのだ。
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 たった二つしか会社がない離れ小島の経済を考えてみよう。第一の企業は、ビーチ、テニスコート、ゴルフコースなどを経営するリゾート企業である。第二の企業は傘メーカーである。両社ともその業績は非常に天候に左右される。晴れの続く時期にはリゾートが繁栄し、傘の売り上げは落ち込む。雨の季節にはリゾートは不振だが、傘メーカーは高収益を享受する。
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 平均して一年の半部は晴れ、半分は雨が降る。すなわち、晴れと雨の確率は二分の一であるとしよう。傘メーカーの株式を買った投資家は、一年の半分は投資額の五〇%のリターンを上げ、残る半分は二五%損をするため、この投資家の平均リターンは一二.五%になる。この一二.五%という数字は、先に投資家の期待リターンと呼んだものである。同様に、リゾートへの投資も同じ結果になるであろう。しかし、結果がかなり変動するし、ある年に晴ればかり、ある年には雨ばかりが続くこともありうるから、どちらの事業への投資もかなりのリスクを伴う。
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 この簡単な例は、分散投資の基本的なメリットを説明している。天気がどうなろうと、そしてその結果、島の経済がどうなろうと、両社に投資を分散させることで、投資家は毎年確実に一二.五%のリターンを上げることができるのだ。
 個別の会社の業績が全く同じように動かない限り、分散投資は常にリスクの低下をもたらす。このケースでは、両者のリターンは完全にマイナスの相関関係にあり、一方がよい時には他方が常に悪くなるため、分散投資によって完全にリスクをなくすことができるのであう。
 もちろん、物事は常にそううまくいくわけではない。このケースでは、大半の会社の先行きはかなりの程度同じ方向に動くことが問題になる。不景気にかなり多くの人が失業すれば、夏の休暇もとらず、傘も買わなくなるかもしれない。したがって実際には、この例のようなきれいな形ですべてのリスクを除去することはできない。それでも、すべての企業の業績が常に完全に同じ方向に動くわけではないから、株式のポートフォリを組んで分散投資をすれば、一つや二つの証券に投資するよりもリスクは小さくなるだろう。
(第8章 新しいジョギング・シューズ)

5.相関係数のマジック
 完全に正の相関(相関係数がプラス一)とは、二つの市場がぴったり足並みを揃えて完全に同じ動きをする〈同時に上下する〉場合を意味する。完全に負の相関(相関係数がマイナス一)とは、二つの市場が常に逆方向に動くことを意味する。片方が上がれば、もう一方は必ず下がる。もし、先ほどの離れ小島の例にあった会社のように、二つ市場の間の相関が完全にマイナスならば、分散投資によって完全にリスクを取り除くことができる。
 ここからが重要なポイントである。分散投資によるリスク低減の恩恵にあずかるのに、マイナスの相関は必ずしも必要不可欠ではないのだ。マーコビッツが投資家の財布に真に貢献したのは、完全に正の相関でない限り、分散投資さえすれば何であれリスク低減に役立つ可能性があることを示した点にある。
(第8章 新しいジョギング・シューズ)

6.分散投資という豊かな鉱脈
 ポートフォリオのリスクが最も小さくなるのは、外国株式二四%とアメリカ株式七六%という組み合わせであることが分かった。さらに、アメリカ株式だけだったところに二四%だけEAFE株式を加えることによって、ポートフォリオのリターンも高まっている。この意味で、国際分散投資は金融の世界では珍しく、「ただ飯」に近いものを提供してくれるのである。リスクの高い外国株式を加えることによって、より高いリターンとより低いリスクが実現できるというのなら、これは個人投資家にとっても機関投資家にとっても無視するわけにはいかない。
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 不動産のリターンは必ずしも他の資産と足並みを揃えては動かないからである。例えば、インフレーションが加速する時には、不動産は株式よりもかなり高いリターンをもたらす傾向がある。したがって、不動産を加えることはポートフォリオ全体のリターンの変動性を低下させるのである。
(第8章 新しいジョギング・シューズ)

 









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