ウォール街のランダム・ウォーカー(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日


1.リスクとリターンは正比例する
 株式は、明らかに長期平均的には非常に高いリターンを上げてきた。しかし、ジョージ・ワシントンが大統領として得た初めの給与からたった一ドルだけ投資に回し、それが株式のリターンと同じ率で複利運用されると仮定すると、二〇〇六年までには彼の子孫のうち八人以上が億万長者になっていた計算である。
 一七九〇年以降、株式は年率八%のリターンを上げてきた。表1が示すように、一九二六年以降についてみると一〇.五%とさらに高まった。しかし、このリターンは投資家がかなりのリスクを負った結果得られたものである。例えば、対象となった年のうち三〇%は、総リターンがマイナスだった。したがって、より高いリターンを目指すのであれば、「ただ飯などどこにもない」ことを決して忘れてはならない。より高いリターンを得るための当然のコストは高いリスクをとることなのである。
(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

2.リスクは投資期間に依存する
 投資対象を保有する期間、すなわち「持続力」が、投資に伴う実際のリスクに関して重要な役割を果たす。アセット・ミックスを決定する上で、ライフサイクルのどの時点にいるかが重要なのかは、実はそれが持続力にかかわってくるからである。
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 株式投資のリスクも、投資期間に応じて減少するのだろうか。答えはもちろん「イエス」である。株式を「長期間」保有し、一度買ったら多少の価格変動があっても我慢して持ち続けるという基本方針が貫ければ、リスクの全部ではないが、かなりの部分を減らすことができる。
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 S&P五〇〇指数のような、広く分散された株式ポートフォリオに投資していた場合には、一九二六年から二〇〇五年までの期間を通じて年平均一〇.五%という高いリターンを上げることができたのである。しかし、それでも心配性の投資家にとっては、年々のリターンの振れは大きすぎると思えるかもしれない。典型的な株式ポートフォリオのリターンは、ある年には五二%を超えたかと思えば、別の年には二六%以上ものマイナスになっていたりする。ある一年間をとってみて、確実に満足のいくリターンを稼げる保証はどこにもない。もし、たった一年だけしか投資する資金がなく、プラスのリターンを確保したいと思うなら、せいぜい一年物の財務省証券を買うか、一年物の政府保証付き譲渡性預金を買うほかないのである。
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 投資対象を保有し続けられる期間が長ければ長いほど、ポートフォリオに占める株式の割合を高めるべきなのだ。一般的に言って、投資期間が例えば二〇年以上とかなり長期間でなければ、株式から平均的に得られる高いリターンを手にすることは難しい。
 さらに、こうした高いリターンを得るには、広く分散投資されたポートフォリオを購入し、保有し続けるという一貫した戦略を取り続けることが必要である。売買のタイミングで勝負しようとしてムダに売り買いを繰り返すのは、ブローカーに余計な手数料を稼がせ、政府に余分な税金を払い、投資パフォーマンスを悪くするだけだ。
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 年齢とともにより保守的な運用を心がけるべきだという原則につながる最大の理由は、勤労所得に依存できる余地がますます小さくなってくるからである。このため、株式投資がマイナスのリターンに終わる期間を耐え忍ぶことが難しくなるのだ。そうなると、株式市場の不振が暮らしぶりに直結しかねない。したがって、リターンは小さくても、確実性の高い債券中心の運用のほうが理にかなっている。ポートフォリオ全体に占める株式の比率を低くすべきなのだ。
(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

3.ドル・コスト平均法はリスクを効率的に軽減する
 ドル・コスト平均法は、間違ったタイミングで株式や債券に有り金全てをつぎ込む愚から身を守る投資法である。
 ドル・コスト平均法という言葉の難しそうな驚きにおじけづかないでほしい。これは単に一定の金額を毎月もしくは毎四半期に、長期間にわたり同じ投資対象、例えば投資信託を等額ずつ買い続ける投資方法のことである。同一金額の資金を同じインターバルで継続的に株式に投資し続けることによって、ポートフォリオの中の株式をすべて高値で取得することが避けられるため、リスクをなくせないまでも、かなり減らすことができる。
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 ドル・コスト平均法が成功するかどうかの鍵は、市場全体が弱気になっている時にあなたが平常心を失わず、勇気を奮って等額の追加投資を続けられるかどうかにある。いくらあなたが一時的に悲観的気分に陥ろうが、金融や世界の情勢がいかにみじめになろうが、ひとたび始めたこの投資戦略をやめてはいけない。やめたが最後、市場が急落した時に、少なくともいくらかは超安値で追加の投資ができるという保証を放棄することになってしまう。
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 ほとんどの投資家にとって本質的な問題は、悲観論が蔓延するような相場下落の局面でも、動揺しないで株式投資を続けられる固い意思があるかどうかということである。相場が下落したからといって止めてしまったのでは、元も子もないのだ。
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 相場が急落し、その後すぐに回復する見込みがないような場合は、結果的にその時が絶好の買い時ということが多い。期待と欲望が相乗効果で膨れ上がってバブルを生むのと同じように、悲観と落胆が折り重なって、市場のパニックを引き起こすことも多い。大々的なパニックは、最も華々しいブームと同じように、理由が何もないことが多い。どれほど見通しが暗かろうと、物事は徐々に快方に向かっていることが多いのである。株式市場を全体として見ると、常にニュートンの法則とは逆の方向に動いている。つまり、いったん下がったものは、必ずまた上がるのだ。しかし、この法則は市場全体について当てはまるのであって、個別銘柄については必ずしも当てはまらない点には注意を要する。
(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

4.リバランスによってリスクを減らすリターンを高める
 「リバランス」と呼ばれるきわめて単純な投資のテクニックを使うことによって、リスクを減らし、状況しだいではリターンを高めることができる。このテクニックは、異なるアセット・クラス、例えば株式と債券に投下されている資金割合を、あなたの年金やリスク選好、あるいはリスク許容度に最もふさわしい割合に微調整するだけでいいのだ。
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 アセット・ミックスの見直しを全く行わなかった場合のリターンが年平均八.〇八%だったのに比べ、リバランスを行った場合には八.四六%に高まったのである。
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 投資家なら誰でも、間違うことなく「安く買って、高く売る」指令を出してくれる魔法使いがいたらいいなと願うだろう。そして規則正しいバランス戦略こそ、その魔法使いなのだ。
(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

6.投資家のライフサイクルと投資戦略
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  ※ 自分のリスク選好をわきまえること
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 資産運用を考える上で最も重要なことはあなたのリスク選好なのだが、それを決められるのは他ならぬあなただけである。株式や長期債を保有している期間が長くなればなるほどリスクは減少するという事実は、確かに安心材料である。しかし、毎年のポートフォリオの価値は結構変動するが、それを我慢して見守るだけの忍耐強さが必要なのである。あの九.一一テロの直後に株式市場が再開された日にダウが六〇〇ポイントも急落したのを、あなたはどのように受け止めただろうか。そういう事態が起きた時に、胃が痛くて夜も眠れないというのであれば、あなたは株式の保有割合を減らすべきだ。
(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

7.ライフサイクルに合わせた投資の手引
  ※ 分散投資の基本的な考え方
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 二〇代の人たちには非常にアグレッシブな投資方針をお勧めす。二〇代の間なら、投資サイクルの上げ下げを乗り切っていくだけの時間的余裕があるし、生涯の給与の大半をこれから手にしようという時期である。
 この場合の推奨ポートフォリオには、株式が多く含まれているのみならず、リスクの高い新興市場を含む海外株式もかなりの規模で組み入れている。さらに、外国株の比重も高い。第9章で説明したように、国際分散投資はリスク削減に非常に効果的である。景気循環のタイミングは必ずしもすべての国が完全に相関してはいないため、国際的に分散されたポートフォリオであれば、国内株のみのポートフォリオに比べて、毎年のリターンの振れは小さくなる。
 投資家が年をとるにつれて、リスクの高い投資の割合を減らし、債券やREIT(上場不動産投信)、配当が安定して高水準な株式の割合を増やし始めるべきである。そして、五五歳までには定年後に備えて生活設計にとりかかり、利子・配当収入を中心にしたポートフォリオに切り替えるべきだ。債券の比重を高め、株式に関しても成長性よりは配当収入を重視した、より保守的な運用するのが望ましい。
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 ほとんどの投資家に対して、私は幅広く分散投資された市場インデックス・ファンドをお勧めする。
(第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略)

 









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