ウォール街のランダム・ウォーカー(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

バートン マルキール (著), 井手 正介 (翻訳) 2007年5月25日


1.思考停止型の歩き方 - インデックス・ファンドを買う
  ※ インデックス投資でプロを上回る成績
 時価総額ベースで、アメリカの全上場銘柄の約四分の三をカバーしているS&P五〇〇指数そのものに投資すれば、長期的にはほとんどの投資のプロを上回るパフォーマンスを上げることができるのだ。したがって、この指数に含まれるすべての銘柄をそっくりそのまま機械的に購入することが、株式投資を考える時の簡単で優れた方法の一つである。
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 インデックス・ファンドを買うアプローチの根拠は、効率的市場理論に基づいている。S&P五〇〇指数の長期的なパフォーマンスが、機関投資家のプロのファンドマネジャーの平均よりも優れていることは、すでに紹介した通りである。例えば、一九七四年から二〇〇六年について見ると、S&P五〇〇の年平均総リターンは、株式投信の平均リターンの中位数よりも一.五%ポイント以上高かったのである。
 また、企業年金や銀行および生命保険会社の運用する合同運用株式ポートフォリオに関しても、同様の結果が確認されている。一九八〇年代から九〇年代全体に関して、S&P五〇〇のパフォーマンスは、プロが運用している株式ファンドの約三分の二を上回る成績を示しているのだ。それだけではない。主要なインデックス・ファンドをはっきり上回る成績を上げている投資信託は、一〇本の指で数えられるほどしか見つからないのだ。

  ※ インデックス・ファンド戦略の勧め
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 機関投資家の運用は、いわば「ゼロ・サム」ゲームである。個々のファンドマネジャーは精魂傾けて運用するのだが、誰かが売ったものを誰かが買っているわけで、マネジャーを全部合わせるとそれらは相殺されてしまい、売買コストと運用手数料の分だけパフォーマンスが悪くなるというわけだ。機械仕掛けのウサギを追いかけるドッグ・レースの犬のように、機関投資家のファンドマネジャーは、グループとしては市場平均に負ける仕組みになっているのだ。
 したがって、エクソン、フォード、AT&Tといった大手企業の年金、ハーバード大学基金、全米大学教職員退職基金(CREF)、ニューヨーク州教員年金基金といった大きな基金が、今では運用資金のかなりの部分をインデックス・ファンドで運用しているのも、理にかなったことである。一九七七年には、インデックス・ファンドの規模はわずか一〇億ドル程度であったが、二〇〇六年には三兆ドル以上の期間投資家の資金が、文字通り「指数運用」されているのである。
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 要するに、インデックス・ファンドは何の苦労もなしに、最低のコストで、市場平均リターンを手に入れるための賢者で便利な手段なのである。
(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

2.手作り型の歩き方 - 有望銘柄を自分で探す
 投資家が自分で儲かりそうな銘柄を選びたいという衝動に駆られ、市場平均と同じリターンしか期待できないようなアプローチには飽き足らないという気持ちも、よく理解できるつもりである。
 ただ問題は、自分で選ぼうとすると大変手間がかかる上に、今まで繰り返し実証してみせたように、市場平均に勝ち続ける人はきわめて稀なことだ。
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 私の勧める戦略を実行に移すためには、投資に必要な情報源をしっかり押さえて、ふさわしい証券会社を見つける必要がある。ほとんどの投資情報は街の図書館で手に入る。そして、主要な日刊紙の金融欄、特にニューヨーク・タイムズとウォールストリート・ジャーナルには必ず目を通すべきである。さらに、バロンズなどの主要な週刊誌も、常時そばに置いてほしい。ビジネス・ウィーク、フォーチュン、フォーブスといった経済誌も、投資のアイデアを得るためには大切である。
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 大変難しいことではあるが、一株当たり利益が成長する銘柄を選ぶのが、ゲームに勝つための最大のポイントである。
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 私の投資戦略の基本は、まだ市場が株価収益率の面で大幅なプレミアムを織り込んでいない成長株を探すところにある。ルール1で述べたように、そういう銘柄の成長が現実のものになった時には、しばしば二重の恩恵にあずかれる。一株当たり利益と株価収益率の両方が上昇することによって、大幅な儲けが得られることになる。同じ理由から、すでに何年も先まで成長を織り込んでいて、株価収益率が非常に高くなっている銘柄には気をつけた方がいい。利益が成長するのではなく、逆に減少したりすると、今度はダブルパンチを見舞わされる。株価収益率も利益の低下とともに下落するため、大幅な損失を被ることになる。今世紀の初めには、多くのハイテク株が馬鹿高い株価収益率で売買されていたが、このルールに従って行動していれば、これらの株に手を出して大火傷を負う危険から身を守ることができたはずだ。
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 投資家は皆感情を持った人間であり、欲望、賭け、願望、期待、不安を抱いて株式投資に挑んでいる。だからこそ、株式投資で成功するには、単に知的な面ばかりでなく、心理的な面でも研ぎ澄まされていなくてはならないのだ。
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 もし、ある銘柄が成長株としての実績を示し始めると、成長株としてのストーリーが一般的に受け入れられない場合は、株価収益率が上がり始めるのに時間がかかるかもしれない。成功の鍵は、他の投資家がどっと押し寄せる数か月前に、そういう銘柄を仕込むことにある。
 そこで私が申し上げたいのは、まずその銘柄にまつわる成長物語が、他の投資家にアピールするようなものかどうかを、じっくりと検討していただきたいということである。ぱっと広まるような夢が描けるストーリーだろうか。投資家が「砂上の楼閣」を築きたくなるようなストーリーだろうか。それも、しっかりした土台に裏づけられたものだろうか。十分に見極めてほしい。

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 しかし同時に、プロを含む他の多くの投資家もまた同じように考えていることを忘れないでほしい。効率的市場理論の教えるところによると、一人の人が常に市場平均を上回り続ける可能性はきわめて低い。にもかかわらず、ほとんどの投資家にとって、市場を出し抜いてやろうというゲームは面白くてやめられない。
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 どうしても自分で有望銘柄を探したい人には、ポートフォリオの中心部分はインデックス・ファンドで運用し、残りを個別銘柄に賭けるという混合スタイルを強く勧めたい。もし老後の備えの大部分が株式インデックス・ファンド債券、不動産などに幅広く分散投資されていれば、安心して個別銘柄に賭けるリスクがとれるだろう。
(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

3.人任せタイプの歩き方 - 専門家を雇うべし
 私が過去の実績を信用しないもっと根本的な理由は、すでに紹介したように、ある時期の運用成績とその後の運用成績の間には何ら信頼できる関係が存在しないことである。私は過去四〇年以上を対象に、投資信託の運用成績に一貫性があるかどうかを詳しく調べてみた。その結果、最近の運用成績がよいという理由でファンドを選んでも、将来平均以上のリターンが得られるという保証は全くないという結論に達したのである。確かに、バフェットが運用してきたバークシャー・ハサウェイのように、長期間一貫して素晴らしいパフォーマンスを上げ続けているケースも皆無ではない。しかし、ひと言で言えば、信頼に足る一貫性は全く存在しないのだ。過去のある期間、市場平均を上回る成績を上げたというだけでは、将来高いリターンが得られる保証にはならない。もう一度言うが、過去の実績は未来を予測できないのだ。
(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

4.マルキール・ステップがすたれた理由
 市場は資産のファンダメンタル価値を時には見誤り、一時的に非効率な状態を生み出すかもしれない。しかし、市場に価格形成の面で非効率な部分が存在し、それを見つけて利用すれば確実に報われるならば、賢明な投資家たちは必ずそういう機会をものにするだろう。価格形成における非効率はありうるし、それがある期間続くこともある。しかし、遅かれ早かれ金融の重力の法則が働いて本当の価値が実現することになる。
 以前の版で私は、この本の初版の印税の受取人に息子のジョナサンを指定したことをお話しした。自分の投資助言の責任をとるためにも、私は印税をかなりのディスカウント幅で売られているクローズド・エンド・ファンドで運用したのである。相場がピークにあり、株式投資のタイミングとしては最悪だった一九七三年の終わりと、相場がかなり下げた後の七四年の終わりの二回に分けて投資した。
 この戦略によって、息子のファンドは市場平均を大幅に上回るリターンを上げることができた。というのも、ディスカウント幅が次第に縮小し始めたため価格が着実に上昇し、非常に高いリターンを実現できたからである。
 しかし、かなりの勇気を必要としたことも事実である。というのも、一九七三年に行った投資は、七四年末には相当目切りしていたからであう。しかし、幸運なことにちょうどその時、印税の残りが入り、ドル・コスト平均法によってジョナサンの持株数を増やすことができた。その結果、投資全体のリターンは十分満足のいくものであった。
(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

5.投資アドバイザーのジレンマ
 たまたま教授が二人の学生と道を歩いていた時、一〇〇ドル札が道端に落ちていた。一人の学生が急いでそれを拾ったところ、その教授は、「君はまだわかっていないのかね。もしこれが本物の一〇〇ドル札だったら、もうとっくに誰かが拾っているはずだ」と大声でたしなめたものだ。幸いなことにこの学生たちは、ウォール街のプロに対しても、研究熱心な教授に対しても、それほど敬服していたわけではなかったから、迷わず一〇〇ドル札を拾って得をしたのである。
 ファイナンスの教授のとった立場は、もちろんある程度は筋が通っている。大勢の頭のよい連中が、日夜血眼にいなってチャンスを探し続けている市場で、拾ってくださいと言わんばかりに一〇〇ドル札が転がっていることはまずない。
 歴史の教えるところによれば、そういう市場でも時にはただ飯のチャンスもあれば、投機のために明らかに割高な値段がついていることもある。オランダのチューリップ・バブル、イギリスの南海バブル、インターネット・バブルについての話は、すべて紹介した通りである。投資家が砂上の楼閣を作り上げる一方では、クローズド・エンド・ファンドのようなお買い得品が完全に見落とされていた。しかし、やがて行き過ぎた価格は是正され、同時にクローズド・エンド・ファンドもまた見出されたというわけである。
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 私は新の価値がいずれは行き渡ると信じているが、時には皆が真の価値に気がつかない状態も存在しうるのである。それゆえ、ごくたまには一〇〇ドル札だって落ちているかもしれない。そういう時にはもちろん、私は躊躇なくランダム・ウォークの歩みを止め、さっさと拾うのだ。
(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

6.ランダム・ウォークの旅の終わりに
 本書で通してしばしば見てきたように、市場平均を上回るリターンを上げ続けることは、非常に難しい。株式の本来あるべき価値を探るファンダメンタル分析でも、マーケットが砂上の楼閣を築く傾向を探るテクニック分析をもってしても、平均を上回るリターンを上げ続けることはできない。
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 これらを考慮すると、個人投資家にとって望ましい投資戦略は、次のように二段階で構成されなければならない。まず、市場で達成可能なリスク・リターンのトレードオフを十分に理解することが何にも増して需要であり、自分の性格やニーズにマッチした証券の組み合わせを選ばなくてはならない。
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 インデックス・ファンドでの運用こそ、私が最も強く勧めるアプローチなのだ。どんな場合でも、ポートフォリオの少なくともある部分はインデックス・ファンドに振り向けるべきだ。
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 ある意味で株式投資は男女の道に似ている。結局のところ、株式投資はある種の特殊な才能と幸運という神秘的な力の助けを必要とする、一種のアートだからである。市場平均を上回り続けてきたごく少数の人にとっても、もしかしたらその成功の九九%は、実は単に運がよかったことによるのかもしれない。
(第14章 ウォール街に打ち勝つための三つのアプローチ)

 









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