ピーター・リンチの株の教科書(2章 投資の基本)

ピーター・リンチ、 ジョン・ロスチャイルド (著) 2006年10月27日


○ 2.お金に働いてもらう
 五〇〇ドルを銀行預金にする代わりに、株式投資に向けるとどうでしょう。もっと大きな利益になる可能性があります。過去の平均では、七~八年ごとに倍になっています。多くの賢い投資家がそれを活用してきました。その人たちは、資本(お金)は自分の仕事(労働)と同じように重要だ、ということを悟っているはずです。
 現在アメリカで第二位の大金持ちであるウォーレン・バフェットは、まず預金をして、それを株式に投資することでその富を築いたのです。彼は多くの子供たちと同じように、新聞配達から始めました。できる限りの貯蓄に努め、年少にして、お金の将来の価値を知っていました。
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 貯蓄と投資を早い時期に始めれば、お金に供養してもらう、という境遇に達することもできます。ちょうど裕福な伯父か伯母いて、一生の間、生活に必要なお金を送り続けてくれる。しかも、礼状を書くことも、誕生祝いに訪問する必要もないのです。これはほとんどの人が望む境遇です。どこに行こうと、何をしようと望むままの経済的な自立を得ること。その間、家ではお金がせっせと働いてくれるのです。しかし、この境遇を実現するためには、若いときから毎月決まった額を蓄えるというように、貯蓄と投資の習慣をつけなければいけません。
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 一九六〇年代までのアメリカ人にはカードを使う習慣はありませんでした。ところが一九八〇年代には、平均的な家庭でも、住宅や車のローンで、クレジットカードの残高などで首まで漬かっている、という状態になってしまっていたのです。
 これは先の採点で“不可”の段階ですが、多くの家庭がそれにはまり込んでしまったのです。あなたのお金が銀行や株式を通じてお金を稼ぐ、というのとは逆に、銀行のお金があなたから稼いでいくのです。
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 国民の貯蓄率が高い国では、道路、電話線、工場、各種設備などへの投資、最新のテクノロジーの開発が可能になり、それによって企業は、良質の格安な製品を全世界に向けて輸出することができます。その良い例が日本です。
(2章 投資の基本)

○ 3.何に投資するか - 五つの基本型
 投資には五つの基本的な方法があります。貯蓄口座またはそれに類似のものに預金する、絵画などに収集品(コレクション)を買う、マンションや住宅を買う、債券に投資する、株式に投資する、などがそれです。

 (1)貯蓄口座、MMF、国債、譲渡性預金
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 短期的にはたしかに安全です。損失については保険でカバーされているからです。しかし長期になると、税金やインフレで損になるようです。ここで強調しておきたいのは、インフレ率がCD、TB、MMF、貯蓄口座などの利回りの率より高いときは、これらにお金を注ぎ込む理由がないということです。
 貯蓄口座は、お金が必要になったときに、ただちに引き出すことができるという意味で、お金を置いておくのによいところです。まとまった資金になって他の投資対象に向けるまでのとりあえずの置き場所であって、長期的には、有利な選択肢とは言えません。

 (2)収集品(コレクション)
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 こうした“物”は盗難、紛失に遭う、あるいは火、水、風などによって、歪み、汚れ、裂け、焼け、損壊する恐れがあることです。骨董家具などは白アリの被害もあります。もちろん保険のきくものもなかにはありますが、そのコストは高いものです。
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 なんでも物を収集するということは、とても専門的な行為と言えます。この道の成功者は、その収集対象だけでなく、それが取引されている市場や価格についての権威でもあるのです。学ぶことは多く、一部は本で学ぶことができますが、あとは苦い思いをしながら、経験で覚えるしかありません。

 (3)住宅、マンション
 住宅やマンションを買うのは、これまで最も効率のよい投資になっていました。住宅への投資には、他の種類の投資に比べて二つの大きな利点があります。そこに住みながら値上がりを待つことができること、そして、借金で買えるということです。
 住宅の価値には、インフレ率に連動して上がる習性があります。
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 あなたはその家に住みますが、株式と違って、不動産市場に暴落や調整が起こっても、家を失うような被害を被ることはありません。住み続ける間に価値は増していき、しかも増加分について税金を取られることはありません。そしてその家を売るときんは、一生に一度、税制上の恩恵があるのです。
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 (4)債券
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 償還期限が長期になればなるほど、投資したお金の価値がインフレによって減価するリスクが高くなります。長期債の利率が短期の短いCDなどに比べて高いのはそのためです。ハイリスク、ハイリターンという関係がここでも見られます。
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 株式は債券に比べてリスクは高いが、潜在的にリターンははるかに多いようです。その根拠を確かめるために、二つの選択肢を検討してみましょう。仮に、マクドナルド社の株式と債券を買うことにします。
 株式を買うということは、すべての権利と特権を持つその会社のオーナーになることです。マクドナルドはあなたに各種の報告書をおくります。さらに年次株主総会に招待します。また配当という形のボーナスを支払います。一万六〇〇〇軒のハンバーガー店の業績好調の年は、配当を増やすかもしれません。しかし、仮に配当がなくても、ビッグマックの売れ行きがよくて、すべてが順調であれば株価は上がるでしょう。上がったところで売れば、利益を得ることもできます。
 しかし、マクドナルドが繁栄を続け、配当を増やし、株価が上がるという保証はどこにもありません。もし株価が買値を下回って損をしても、マクドナルドはその補てん、埋め合わせをしてくれません。彼らはそのような約束はしておらず、その義務はありません。株主として安全ネットはないのです。自分のリスクで進むよりありません。
 一方、マクドナルドその他の会社の債券を買うときは、その点でまったく異なります。このケースでは、あなたはオーナーになるわけではありません。貸し手であって、一定の期間、マクドナルドにあなたのお金を使わせるのです。
 マクドナルドが空前の業績をあげた年であっても、あなたにボーナスを支払うことは考えもしないでしょう。会社が株主に報いるために株式の配当金を増やすことは常時行われていますが、債券の利率を上げた、などとは聞いたことがありません。
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 債券の良い点は、株式の値上がり益を得られない代わりに、株式の場合のような値下がり損がないことです。もしマクドナルドの株価が、先ほどの例の逆方向に動いて、一万三五七〇ドルから二二.五〇ドルに下がったとしたら、株主は泣き、債券保有者は笑うということになるでしょう。
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 債券にもリスクがあります。それは三点あり、一つは償還日が来る前に、途中で売却したときです。債券市場では、株式のケースと同じように、毎日価格が上下しています。したがって売り値が買った値段を下回り、売れば損が出る可能性があります。
 次に、債券の発行者が破産するなどして、返済ができなくなるケースです。そのリスクは発行者によって異なります。たとえばアメリカ政府が破産することはありません。必要なときは通貨を発行して返済することができます。これは完璧な保証と言えます。
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 債券投資にまつわるリスクのなかで最も大きなものが第三のリスク、インフレーションです!
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 (5)株式
 住宅を除けば、あなたにとっては、株式が最良の投資対象のようです。馬や血統書付きの猫を買ったときのようにエサを与える必要がなく、車のように壊れる恐れもありません。家は雨漏りがするし、芝生も刈らなければなりません。ベースボール・カードは家事・盗難、洪水で失う恐れがありますが、株式は別です。株主であることを保証する株券も、盗まれたり焼失したりすることがあるかもしれませんが、そのときは、会社が再発行してくれることになっています。
 債券を買っても、会社とお金の貸借関係を結ぶだけですが、株式のケースでは、会社の一部を買ったことになるのです。会社が繁栄すれば、その一角を担うのです。配当の支払いを受け、増配になれば、それだけ収入が増えます。多くの優良会社は、年々配当を増やす傾向があり、これは株式の価値を高めるので、株主にとってのボーナスと言えるでしょう。
 株式投資は他のすべての投資対象と比べて、最も成果をあげてきています。もちろん、その成果は一週間とか一年といった短期間で確かめられるものではないのですが、株を持つ者はいつも報われてきたものです。
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 投資家のなかに株で損をし続ける者がいるとすれば、それは株式の罪ではありません。株式一般は時とともに価値を上げます。損をし続けるというのはその九九%が、しっかりしたプランに基づいた投資行動をしていないことが原因です。高値で買っている株を、いつかは必ずやってくる価値の暴落時に、辛抱しきれなかったり、パニックに陥ったりして、安値で売ってしまうからです。
(2章 投資の基本)

○ 4.株式投資 - 時間を味方にする
 株式投資で成功するには“数字に強くなる”ということはありません。また会計士である必要もないのです。もっとも、会計の基礎的な知識があれば役には立つでしょう。読み書きができて、小学校五年生程度の数字の知識があれば、十分です。次に必要なのはプラン、計画です。
 株式市場は、年が若い方が大いに有利なところです。
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 もしあなたが債券やその他の投資対象を外して、株式に投資することを決めたとします。債券を避けたのは混乱の大きな原因を除いたことになるし、とにかく賢い選択をしたと言えるでしょう。ただし、それはあなたが長期方針の投資家であり、何が何でも株式に固執することを前提にしています。
 一年から二年、あるいは五年くらいでお金を引き揚げるようであれば、最小から株に投資しないほうがいいのです。株価が今年から来年にかけてどうなるかなんて、予想することはまったく不可能です。株式市場全般が“調整”に入って株価が下がったときに、お金が必要になって株を売って資金を引き揚げることになれば、損になることもあるでしょう。
 二〇年以上、というのが適切な時間枠でしょう。これは過去において、株式市場が最も厳しかった調整期を終えて、投資の果実を十分に回収できる水準で上昇した期間です。過去、株式投資の値上がりを加えた総収益の利回り平均は、年率一一%になっています。
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 ただし、その一一%の成果をものにするためには、良くても悪くても株式に忠誠を誓わなくてはなりません。これは“結婚”です。あなたとあなたのお金と投資との結婚なのです。あなたは銘柄選びの天才かもしれません。しかし、選んだその株を持ち続ける忍耐力と勇気がなければ、たとえ成功しても、単に賭けに強い平凡な投資家になってしまうでしょう。投資家の良し悪しを分けるのは、頭の良さではなくて、投資哲学、習性であることが多いのです。
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 ウォール街の人々は、あの街で成功する秘訣をいつも探し回っているのに、それがいつも彼らの目の前にあることに気がつかないのです。“収益力のあるしっかりした会社の株を買って、正当な理由がない限り持ち続ける”というのがそれです。株価が下がっている、というのは正当な理由ではないのです。
 ちょっとした集まりで、自分が長期の投資家だと思う人は? と質問すれば、大多数が手を挙げるに違いありません。しかし彼らにとって本当の試練は株価が暴落したときに来るのです。いわゆる暴落、調整、弱気市場などについては詳細は後の章に譲りますが、そういう下げ相場がいつ来るかは、誰にも正確に予告することはできません。しかし、それが実際にやって来て、一〇のうち九銘柄がいっせいに下げれば、多くの投資家は恐怖感に駆られます。
 テレビのニュースキャスターたちが“惨事”とか“災禍”という言葉を好んで使うため、彼らは、株価がゼロになり元も子も失くしてしまうのではないか、と心配し始めます。そのため少しでも残したいと思うようになって、損になってもよいから、と売り注文を出します。すべてを失うより少しでも残ったほうがよい、と自ら慰めるのです。
 自称長期投資家が、突然、そろって短期の投機家になるのがこのときです。彼らは初めに株を買ったときに、よい会社の一部を買うのだ、と心に決めたことを忘れて、感情に流されてしまうのです。株価が下がったためにパニック状態になり、株価が戻るのを待つより、安値で投げ売りし、誰にも強制されないで、自ら望んでお金を失うのです。
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 暴落や調整場面で株を買うのは危険だ、と言う人がいます。とんでもない。そういうときには、売るほうこそ危険なのです。価が大幅に下げるというめったにない投資のチャンス。それを見過ごしてしまうというもう一つのリスクを、彼らは忘れているのです。
 一九八〇年代の五年連続上げ相場で、株価は年率二六.三%上げています。計画を着実に実行した賢い投資家は、その間に投資額を二倍強に増やしています。しかし、その儲けのほとんどは、市場が開いた一二七六日のうちのわずか四〇日の間に達成されたものです。もしその四〇日の間、次に来る調整を避けようと考えて、株を持っていなかったとしたら、年率二六.三%は、ただの四.三%になっていた計算になります。
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 最もよい方法は、いつまでも放っておいておけるだけのお金を貯めて、それで株を買い、何があっても持ち続けることです。相場が悪いときには辛いことでしょうが、売りさえしなければ、損を確定することはありません。
(2章 投資の基本)

○ 5.投資信託 - プロに任せる
 とくにあなたは数字が苦手で、コダックの利益とか、ナイキがリーボックより良い靴をつくる、などということにあまり関心がない場合には、そうしてもよいでしょう。
 ファンドの有利な点と言えば、練達のプロが的確な運用をすることに加えて、多くの会社の株を同時にもてることです。ファンドを買うと同時に、あなたは自動的にそのファンドが株を保有している何ダースもの、いや場合によっては何百という会社のオーナーになることができるのです。たとえ投資額が五〇ドルであろうと五〇〇〇万ドルであると、そのファンドが持つ全部の株の一部を持つことになるのです。これは、たった一つの株を持つより、はるかにリスクの少ない投資法と言えます。
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 投資信託の歴史
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 長い間一般投資家に見捨てられていた投資信託が、一九六〇年代後半になって人気を回復してきました。全国津々浦々まで、教師、商店主、事務員など、あらゆる職業の人々が、週末や夜間のアルバイトで売り歩いたものです。しかし、これは不幸な結果に終わっています。というのは、何百万人という投資家がファンドを買ったこの時期は、一九二九年の大暴落以降では最悪の一九六九~七三年の下げ相場の入口に当たっていたからです。
 この長い間続いた株価の低迷の間に、ファンドのなかには評価額が七五%も下がったものもありました。
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 その後の一〇年近くは、株式ファンドの販売はとても難しく、優良はファンドでも、まるで疫病神のように忌み嫌われて、誰も寄りつかない状態でした。腕のよいマネジャーにとっては、多くの優良株をバーゲン価格で買える絶好のチャンスだったのですが、顧客がいなければ、買うお金がありません。
 一九八〇年代になって株式市場が回復に向かうにつれて、投資信託業界にも明るさが見えてきました。
(2章 投資の基本)

○ 6.株式投資は愉快な冒険だ
 あなたに時間と熱意があれば、生涯を通じての痛快な冒険に乗り出すことができます。自分で株を選ぶのです。これは投資信託を買うのに比べると、はるかに多くの努力を必要とします。しかし、それに見合うだけの大きな満足感を得ることができるのです。長期間には、たぶん、ほとんどのファンドよりは良い成果が得られるでしょう。
 といっても、選んだ株が全て上がるとは限りません。一〇〇%成功を収めた投資家は、今まで一人もいないのです。ウォーレン・バフェットでさえ誤りを犯します。ピーター・リンチに至っては、失敗例で何冊かのノートが一杯になるほどです。しかし、一〇年間にいくつか大化けする銘柄があれば、それで十分なのです。六つか七つの銘柄の成績がまずますのところに、一つか二つの失敗があっても、それを補って余りあるというものです。
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 早い時期に始めるほど有利。計画を持つ。その計画を持続させる。暴落や調整に驚かない。などといった教訓です。
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 銘柄選びについて、五つの基本的な方法が浮かんできます。それは次のようなものですが、最もばかげたものから始まって、最も役立つもので終わっています。

 ①ダーツ
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 この方法の最も良い点は労力を必要としないということです。行き当たりばったりに株を買うという傾向があるなら、むしろ投資信託を選んだ方が身のためになるでしょう。

 ②人のうわさで銘柄を選ぶ
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 五〇ドルのオーブンを買うのに、いくつかの店を回って価格を調べてからでなくては買わない人が、何千ドルもの虎の子を“ホームショッピング・ネットワーク”などについてのうわさ話に注ぎ込んでしまうのです。なぜ?と言えば、もしそのうわさを聞き捨てにして、ホームショッピングが四倍になっては“損をする”。それがくやしいからでしょう。実は、たとえホームショッピングが四倍になり、それを買っていなかったとしても、一銭も損をしてはいないのです。
 持ってもいない株で損をすることはあり得ません。損をするのは、ホームショッピングの株を買い、それが下がって、買い値より下の価格で売ったときに限ります。

 ③裏付けのある情報
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 専門家の情報で問題なのは、彼らが考えを変えたときに、それを知る方法がないことです。彼らがテレビに出てきて、考え方が変わったことを公表し、それに加えて、たまたまあなたがそれを見ていない限りは、現実には難しいことです。となると、専門家が見捨てた株を、ずっと持ち続けることになってしまいます。
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⑤自分で調査、研究する
 これこそ最高の形の銘柄選びです。自分で内から外まで全部調べ上げた結果、気に入った会社があったら、その会社の株を買う。
 株式投資について学べば学ぶほど、他人の意見に頼らずに済むようになり、“おいしい話”も正しく評価できるようになります。どの銘柄をいつ買うのがよいか、自分で決めることができるのです。
 そこで、二つの種類の情報が必要になります。一つは目を見開いて見つけるもの、そしてもう一つは数字を吟味して得られるものです。前者は、マクドナルドやサングラス・ハットなどの株式を公開している会社が運営している店に入ったときに、すぐ集め始められます。その店にあなたが働いてでもいれば、もっとよいのですが。
 店が上手に運営されているか、そうではないのか。人手が足りないか、あるいは多すぎるのか。組織がしっかりしているのか、あるいは混乱状態なのか。従業員のモラルを推し量ることもできるし、経営者がお金について、しっかりしているのか、だらしがないのかも感じ取れるでしょう。
 顧客の動向も目に入ります。レジスターに客が並んでいるか、空いているのか。商品についての苦情を聞くか、などもろもろのことから、その店の親会社の様子まで、よく知ることができるのです。
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 あなた自身がそういう恩恵を利用できる立場にいなくても、顧客の視点から観察することはできます。店で買い物をする、ハンバーガーを食べる、新しいサングラスを買う、そのたびに価値ある情報を得ているはずです。歩いていると、何が売れていて、何が人気がないかがわかる。友人たちがどのコンピュータを買い、どんな銘柄のソーダを好み、どの映画を観るか。リーボックはまだ人気があるかどうなのか。みんな良い銘柄を探し当てるうえで重要なヒントになります。
 いかに多くの人たちが、そのようなヒントを見過ごしていることか、驚くほどです。何百万という人たちが、毎日のように投資の機会に向き合っていて、その有利な立場を利用していないのです。医師はどの薬品会社が良い薬をつくっているのか、よく知っています。ところが彼らがいつも薬品会社の株を買うということはないのです。
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 人気のある商品を売る会社の株を、ただちに買ってよいということはありません。投資に踏み切る前に知るべきことがまだたくさんあります。手持ちの資金を浪費してしまわないで上手に使っているのかどうか、銀行借り入れの額や、売上の伸び率は? 昨年度の利益と将来の予想利益、株価は適正な水準にあるか、上げ過ぎ? あるいは割安か?
 配当をしているのか、そしてその率は? 過去の配当率の推移、利益、売上高、借入金、配当、株価、これらは株式投資に当たって必須の数字です。
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 投資は厳密な科学ではありません。数字をいくら研究しても、企業の過去の業績について知り尽くしたとしても、将来の業績見通しについて一〇〇%正確に予測を立てることは不可能です。明日起こることは、あくまでも予想です。しかし投資家として実行すべきことは、ヤマカンではなくて、調査・研究の結果としての予測を立てることです。そして銘柄を選んだら、高値を避けて買い、良い悪いにかかわらずその会社に関して出てくるニュースに目を配ることです。その知識を活用すれば、リスクを低く押さえることができます。
(2章 投資の基本)

○ 7.株を買うにはどうするか
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 (1)証券取引所で買う
 もし誰かに、たとえ一~二か月の間でもアメリカになくてはならない機関を五つあげなさい、と言われたら、なんと答えますか? 軍隊? 警察? 法廷? 電力会社? 水道局? 病院? ・・・一分間ほど目を閉じて、あなた自身の選択をしてみてください。
 株式市場、債券市場を入れましたか? ほとんどの人は入れないでしょう。私たちが欠くことのできない重要なサービス、つまり食べ物、住宅、電話、警察などを考えるとき、ウォール街はすぐには思いつきません。しかし実際には、金融・資本市場はただ単に証券の持主だけではなく、全国民の生活にとって非常に重要なものなのです。たとえホワイトハウスでも、一カ月休みにして閉めたところで、世界の動きが止まることはないでしょう。ところが証券市場がないと、経済システムは止まってしまします。
(2章 投資の基本)

○ 10.利益の意味を正しく理解しよう
 パソコンは見えざる手の働きを示す直近の例です。パソコンが発明され、人気が高まると、多くの新しい会社が設立され、投資家は競ってその株を買いに走り、何十億ドルもの資金をコンピュータ業界に注ぎ込んだのです。その結果、より優れた、より高速のコンピュータ業界に注ぎ込んだのです。その結果、より優れた、より高速のコンピュータが低コストで製作可能になりました。競争の激化によって、多くの会社が倒産に追い込まれましたが、生き残ったところは、低コストで最も良い製品を生産した会社でした。最も適した者が生き残るという原理は、動物の世界だけのことではないのです。資本主義の世界にもそれは生きています。良い経営陣をもつ、業績好調の会社は、株式市場でも報われます。株価は上がり、投資家はハッピー。経営陣も、従業員も、株を持っている人も同様にハッピーです。
 経営に問題がある会社は業績が冴えず、株価も下がります。そして経営陣はその報いを受けます。株価の下げに投資家は怒り、それが高まってある段階に来ると、会社に圧力をかけて、無能な経営陣を追放するなどのリストラを進めさせ、収益力の回復を図ることになるのです。
 リストラが成功すれば、収益力の高い会社は、儲からない会社に比べて資金調達も容易になり、いっそう内容が充実して企業力が高まり、さらに拡大、成長していく経営資源を持つことになります。収益力の劣る会社は資金調達もままならず、資金は枯渇し、衰退への道をたどることになります。強者は生き残り、弱者は倒産して、むだな資金を注ぎ込む必要はなくなります。その資金は、投資効果のより高い対象に流れるという結果になるのです。
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 もし、資本主義者と投資家は“利己主義で貪欲で、自己の銀行預金を増やすことしか考えていない”という批判がいくらかでも当たっているとしたら、世界でいちばん裕福な国が、世界で一番の慈善国家であるのはなぜでしょうか。アメリカは慈善の額では世界一で、それも個人の寄金が最も多いのです。たとえば一九九四年には、アメリカに住む人たちは、ホームレス、身体虚弱者、失業者、養護院、病院、教会、博物館、学校、退役軍人、全米共同募金などなど、多くの慈善事業のための自分のポケットから一〇五〇億ドルを寄付しています。
 資本主義はゼロサム・ゲームではありません。一部の詐欺師を除いては、金持ちが他人を貧乏にして、その犠牲のうえで資産を築いてきたということはありません。金持ちが資産を増やすときには、貧乏人も同じように潤うものです。もし、金持ちは貧乏人の犠牲によって資産を増やすというのが本当なら、アメリカは世界一金持ちの国だから、その陰には、地球上で最も悲惨な貧民の群れをつくり出しているはずです。ところが現状はまったく逆です。
(2章 投資の基本)

○ 11.会社は成長するお金の工場だ
 株主が願うのは収益の成長です。年々利益が増えていくことです。株主の言う成長とは、大きさではなく、収益力である利益の伸びなのです。
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 こういうふうに考えてみてはいかがでしょうか。あなたにロックグループを結成しようという友人がいるとして、楽器を買う資金を求めているとします。彼はあなたに、もしあなたがアンプの代金として一〇〇〇ドルを出資すれば、そのバンドの一〇%の持主にする、というような提案をし、そこで合意に達して、契約書にサインをする。
 バンドが演奏活動を始める前は、どうもばかな取引をしたように思えるでしょう。唯一の資産があなたが買った一〇〇〇ドルのアンプというバンド。この段階では、あなたはバンドの一〇%の持主というにすぎない。しかし、出演料は一回二〇〇ドルでこのバンドに声がかかり、地元のクラブの金曜の夜のダンスに毎週演奏をすることになる。今やバンドは収益をあげるようになって、アンプを超える価値を持つようになり、あなたの取り分は毎週二〇ドルになります。
 もしバンドの人気が出て、出演料が四〇〇ドルに上がると、あなたの収入は突然、二倍の四〇ドルになります。
 この時点では、その契約書はもう無価値のものではないのです。希望すれば売ることも可能でしょう。しかし、あなたがこのロックグループを評価しているとしたら、その持分を金庫にしまっておくでしょう。いつの日かCDを出し、二四時間放送のMTVに採用され、スターの仲間入りをするかもしれません。もしそうなれば、あなたの収入も毎週何千ドルにもなり、一〇%の持分の価値は、アンプを提供したときには夢にも思わなかった水準にまでハネ上がるでしょう。
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 株価は会社の収益力に直接結びついている、という簡明なことが、見過ごされていることが多いのです。経験豊かな投資家の場合でも例外ではありません。チッカーテープを絶えず眺めている人たちは、株価それ自身が生命を持つものと考えるようになり、上下の波を追います。
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 一般的に言えば、会社の利益の伸び率が高ければ高いほど、PERが高くなる傾向があります。積極的に業務展開をする若い会社のPERが二〇倍を超えているのはそのためです。投資家の期待が大きいのです。それに比べて、歴史の古い、すでに基盤の固まった会社のそれは一〇台の前半から半ばまでです。それらの株価が利益に比べて低いのは、投資家が、業績は安定していても目覚ましい発展は望めないと考えているからでしょう。
(2章 投資の基本)

○ 12.冷静であれば一〇倍も難しくない
 株に投資するときには、その株についての“ストーリー”をしっていなければなりません。投資家が間違えるのはこの点です。ストーリーを知らずに株を買い、株価を追いかける。というのは、彼らが知っているのが株価だけだからです。株価が上がれば、会社はうまくいっていると考える。ところが低迷したり下がったりすると、飽きてきて、嫌気がさし、売ってしまう。
 株価とストーリーを取り違えるのは、投資家が犯すいちばん大きい過ちです。調整期や暴落時、つまり株が安値のときに市場から離れてしまうのです。株価が下げたから会社の業績も良くない、と錯覚するのでしょう。こうして、会社の業績は好調だが株価は安い、という絶好の買い時をみすみす逃してしまうのです。
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 しかし、全体像がハッキリ見えていて、一般の投資家がそのすばらしさを理解できることが時にあります。このようなときこそ、会社を知ることが報いられるのです。一九八七年のナイキと一九九四年のジョンソン&ジョンソンという、二つの時期の二つの例について考えてみましょう。
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 ジョンソン & ジョンソン
 投資家一般にとってわかりやすいストーリーの、もっと新しい例がこの会社です。実はピーター・リンチこと私自身もこのストーリーに乗っかっています。特別な才能が必要なわけではないのです。一九九三年の年次報告書を読めば、誰でも同じ結論、つまりこの会社の株は買いだ、ということに達したに違いありません。
 一九九三年の報告書は、一九九四年三月一〇日に発送されました。手にとってまず目についたのは、過去二年間の株価の歩みです。それは一九九一年末の五七ドルから、報告書を受取った時点の三九ドル八分の五まで、二年間下がり続けていました。
 これほどの優良企業の株価が、全般的な上げ相場のなかでこのような状況とは! どこかおかしいはずです。報告書のどこを見ても、四二ページにある要約のなかにも悪いニュースは見当たりません。良いニュースばかりです。利益は一〇年間着実に上昇して、その間に四倍になっています。売上高も順調に伸びていました。さらに、一〇年間にわたって増配を続けていると述べているのですが、実はその記録は三〇年間続いていたのです。控え目にしようと考えていたのでしょうか。
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 年次報告書の二九ページの表示によると、同社は現金と市場性のある証券との合計で九億ドルを保有し、総資産は五五億ドル。長期負債は一五億ドルで、総資産五五億ドルの企業としては少ない額です。この資産内容から見れば、同社が廃業に追い込まれるなどということはまずない、ということが明らかでしょう。
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 当時の平均PERは、一九九五年の予想利益で計算すると約一六倍でしたから、同社の一一倍はそれよりはるかに良かったはずです。すばらしい会社。すべて順調で、利益、売上高はともに伸び、見通しも明るい。ところが株価が三九ドル八分の五に下がり、年次報告書が届いた頃にはさらに三六ドル近くまで下がっていました。
 とても信じ難くはあっても、結論は避け難いものでした。株価が下がる理由になるような弱点は、同社についてまったくなかったのです。問題は会社自体にはなく、“医療改革”への恐れが問題だったのです。一九九三年に、議会では医療改革法案について、各種の審議が進行中でした。それにはクリントン政権による提案も含まれていました。投資家はそれが法制化されて、医療関連の企業が打撃を受けることを恐れました。そこで彼らは、他の関連企業とともに、同社の株も投げ売りしたのです。その産業全体が売り目標になったと見られます。
 もしクリントンの法案が通ったとしたら、その懸念はある程度は本当になったかもしれません。しかし、そうなったところで、ジョンソン&ジョンソン自体への影響は、他社に比べて少なかったと考えられます。報告書の四一ページによれば、同社の利益の五〇%を超える部分が国際業務からのものであり、クリントン法案の影響外にあること。また、二六ページによれば、利益の二〇%はシャンプー、バンドエイド、その他の一部商品からあがるもので、法案の対象になっている薬品の範囲外にあること、などがその根拠です。いずにしても、投資家一般が恐れた脅威について、同社の関連する部分は限られたものであることがわかります。
 年次報告書を読んで、同社の株価三九ドル八分の五というのは“世紀のバーゲン価格”だと悟るのに二〇分以上はかからなかったはずです。ジョンソン&ジョンソンのケースは、それほど込み入ったものではありません。それを読み解くのには、プロの投資家である必要はなく、またハーバード・ビジネススクールの卒業生でなくてもよかったのです。
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 一九九四年、真夏の頃、ピーター・リンチは再びジョンソン&ジョンソン株を広く推奨しています。株価はそのときすでに四四ドルまで反騰していましたが、その水準でも利益に比べて割安でした。そして一九九五年一〇月には八〇ドルを超えています。一八カ月の間に二倍になったのです。
(2章 投資の基本)










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