ピーター・リンチの株の教科書(3章 会社の一生)

ピーター・リンチ、 ジョン・ロスチャイルド (著) 2006年10月27日


○ 1.第一の誕生日 - 会社の創立
 エンジェルは、金持ちの伯父さん、遠縁の従兄、裕福な友人、などのなかで、進んで長期の投資をしようという人たちです。その人たちがお金を出すのは、何も福祉のためではありません。新しいアイデアには、ひと肌脱げば成功のチャンスがある、と思うからです。そして彼らはその代償として、ビジネスの持分を要求します。しかも、大きな持分を要求することが多いのです。
 すでにおわかりのように、すばらしいアイデアの持主でも、成功を収めるには利己的であってはならない、つまり事業の一〇〇%の持分を確保しようなどと考えてはだめだということです。プロジェクトがスケール・モデル(縮尺模型)、あるいは事業計画の段階を超えて進むにつれて、新しい投資家、それももっとふところの深い投資家からの資金調達が必要になってきます。
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 発明家として優秀な人が、広告宣伝、資金調達、人事管理などに優れているとは限りません。このうちのどれが欠けても、若い企業が破綻することがあるのです。
(3章 会社の一生)

○ 2.第二の誕生日 - 株式の公開
 よく見られるのは、新規公開株の価格は、当初の数日間、あるいは数か月間人気を集めて上昇しても、その後、熱が冷めるとともに下がってしまうという現象ですが、このときこそ零細投資家にとって絶好の買いチャンスです。
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 資本主義制度の国であるからこそ、裏庭の発明家や学校中退者たちが、会社を始めて、何千人の従業員を使い、税金を納め、社会に貢献して世界を住みよいところにすることができるのです。共産圏諸国の市民にはそのチャンスはありません。
 会社が自社の株で収入を得るのは、株式公募のときだけです。あなたがクライスラー社の中古のミニバンを買ったり、株式市場でクライスラー社の株を買ったりしても、クライスラー社にとってはなんの利益ももたらしません。毎週、何百万というクライスラー株が取引所で売買されていますが、同社の収益に直接結びつくものではありません。株主の間の株式のやりとりは、中古車のケースと同じなのです。
(3章 会社の一生)

○ 3.青少年期 - リスクも魅力一杯
 そのような創業まもない基盤固めの時期には、会社が存続していけるかどうか、まったく未知数です。いくら良いアイデアであっても、製品として出荷できるようにいる前に手持ち資金を使い切ってしまうとか、そのアイデア自体がそれほど良くなかったことがわかる、というケースもあり得ます。
 また、そのアイデアは盗まれたもので、発明したのは自分たちだと訴訟を起こされることも考えられます。裁判になって、陪審員の評決次第では、乏しいふところから、何百万ドルという賠償金を支払うことにもなりかねません。さらに、たとえそのアイデアから良い製品ができたとしても、政府の規格に外れているとして、国内で販売できないことになる可能性もあります。それに、他の会社が同じ種類の、しかも優れた製品を出したり、より安い価格で売る、あるいはその両方で、より良い製品をより安い価格で売る、ということだってあり得るでしょう。
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 会社がライフサイクルの初期にあってリスクが非常に高い期間には、さまざまの種類の災厄に見舞われる可能性があります。そこで株主は、自分の投資を守るために、その会社の進展状況を注意深く見つめていかなくてはなりません。そうした会社は、一つでも間違いを犯すと破産・廃業に追い込まれることがとくに重要になります。若い会社にとっての最大の問題は、資金不足に陥ることだからです。
 一方、良い面では、小さく始まる若い会社は急成長することができます。小さく、動きやすく、すべての方向に発展するのに十分な余地を持っています。これこそ、若い会社が、すでに躍進を遂げて盛りを過ぎている“中年会社”を抜き去ることができる主な理由です。
(3章 会社の一生)

○ 4.中年期 - 安定のなかにも忍び寄る危機
 中年に達することができた会社は、若い会社に比べて安定しています。名前を確立し、失敗から学んでもいます。ビジネスはうまくいっているはずです。そうでなければここまできていなかったでしょう。実績に基づく信用もあります。銀行預金もあるだろうし、銀行との関係も良好で、必要なとき借入れも可能です。言い換えれば、“中年会社”は、安定して平穏な路線に乗っているのです。
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 人間の場合と同じく、会社にも中年の危機があり得ます。それまで支障なくやってきたことが、できなくなってくるのです。そこで旧来のやり方を改め、新しいアイデンティティ、つまり会社の存立基盤を求めて試行錯誤を繰り返すのです。この種の危機はいつでも起こり得ます。
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 ビジネスにとって信用ほど大切なものはありません。一〇〇年の歴史があり、壁いっぱいに賞状を掲げているレストランでも、ただ一度の食中毒、あるいは新しいシェフが注文をとり違えたことでもあったりすれば、一世紀にわたる名声もどこかへ飛んで行ってしまうものです。
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 あとから考えればアップル社の業績回復を裏づけるのは容易ですが、“危機”の最中には、回復の予想を立てるのは、それほどやさしいものではなかったはずです。
(3章 会社の一生)

○ 5.老年期 - 資産家の屋根裏部屋の魅力
 USスチールはブルー・チップ、つまりウォール街語で“永遠に優良企業の立場を保つことを期待される格式ある特別な会社”と位置づけられていたのです。しかし一九九五年の株価が一九五九年の株価を下回っていようとは! 誰も予想できなかったことに違いありません。
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 ここに、将来のあなたの嘆きを少なくしてくれる教訓があります。今日、いかに強力であっても、企業が永久にトップの座に君臨することはできないということです。
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 IBM,GM,USスチールなどの古風な老会社に投資するメリットは? という疑問が湧くかもしれません。それにはいくつかの解答が考えられます。第一に、大きな会社はリスクが少ない、破産の恐れはまずないと考えられること。第二に、配当の支払いを期待できる。そして第三に、含み資産がある、などです。
 これらの年老いた会社は、あらゆる方面に手を伸ばし、経験を積んでいます。その間、種々雑多な貴重な資産をため込んでいると考えられます。事実、古い会社を調べ、財務面を詳細に監査することは、年老いた金持ちの伯母の屋根裏部屋をのぞき回るのと同じように、興味津々です。暗い片隅に、どのような驚くべき貴重品が転がっているかわからないのです。
(3章 会社の一生)

○ 8.会社はインフレと不況に揉まれる
 投資家が経済情勢について語るとき、それが晴れだとか雨だとか、あるいは冬だ夏だというのではありません。会社が立ち向かっていかなければならない外部の力、利益が上がるかどうか、そして結局は会社が生きていけるかどうか、ということの判断の材料になるものが、会社にとっての経済情勢ということです。
 かつて、人口の八〇%が、農業に従事していた頃、経済情勢はすべて天候に関連していました。
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 街角のレストランで会話の主題は株式市場ではなく、天候であるのはもちろんです。天候がそれほど重要だったので、手製の予報書『ファーマーズ・アルマナック』が長年のベストセラーになったのはうなずけます。今日では、天候に関する本がベストセラー・リストに載ることはありません。
 今日では、農民の比率が一%を割っている状態で、天候の影響はほとんどなくなりました。ビジネスの世界でも天気予報への関心は薄く、それはもっぱらワシントンやニューヨークから入る金利、消費動向などに関するニュースに向けられます。
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 不況時には、ビジネスは“悪い”ところから“どん底”へと落ち込みます。清涼飲料、ハンバーガー、薬品など、なくてはならない物や安く手に入る物を売る会社は、不況を無傷で切り抜けることができます。しかし、車、冷蔵庫、住宅などの高額商品を扱う会社は大きな打撃を受けることになります。何百万ドル、いや何十億ドルをも失ったうえに、それを埋める資金力を持たない会社は、破産の危機にもさらされるのです。
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 会社や投資家にとって理想的な経済情勢と言えばゴールディロックスの候、熱からず冷たからずです。ところがこの状態はいつも長続きしません。経済情勢はいつのときも、熱されている最中か、冷え込んでいく途中にあるかのようです。ただ、それが発する信号は非常に複雑で、混同しやすく、したがって、ある時点でどちらに向かっているのかを判断するのが難しいのです。
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 過去五〇年の間に、私たちは九つの不況を経験しました。それからいくと、あなたの一生の間にも一ダース以上の不況が起こると覚悟しなければならないでしょう。そのたびに新聞・雑誌やテレビでは、国は壊滅に向かう、株を持つことは大変危険だ、といった報道を繰り返すことになるでしょう。その際に心にとめておきたいことは、私たちは、大恐慌をはじめとして、数々の不況を乗り切ってきたということです。前掲の表5を見れば、平均すると不況は一一カ月続き、一六二万人が失業し、回復には五〇カ月かかり、九二四万人の雇用が創出されていることがわかります。
 経験を積んだ投資家は、株価が不況を予期したり、あるいはインフレの見通しから下がることがあっても、それはどちらも誤った動きであることを知っています。経済情勢は予測不能であることを心得ているからです。インフレはいずれ鎮静するし、不況からもいつかは脱出できるという信念を持つべきです。
(3章 会社の一生)

○ 9.強気と弱気の間で揺れ動く投資家
 相場が直近の高値から一〇%下がったとき、それを“調整”と呼びます。この二〇世紀になってからの“調整”は五三回を数えます。平均二年に一度です。また二五%以下の下げは、“ベアマーケット”と呼ばれます。五三回の調整のなかの一五回がそれに当たります。これは平均六年に一度になります。
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 ベア・マーケットが続くと、誰もが忍耐力を試されることになります。経験豊かなベテラン投資家も例外ではありません。いくら銘柄選びが上手でも、株価は下がるし、もう底値だと思っても、それからもう一段下げるのです。
 一九二九年の高値で株を買った人は(幸いにも数はそれほど多くなかった)、買値に戻るまでに二五年かかっています。
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 投資家が調整やベア・マーケットを避けて通ることができないのは、北国の人たちが吹雪が来るのを避けられないのと同じことです。
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 誰でも犯しがちな大きな過ちの一つは、相場が調整に入りそうだということで、それを避けようとして、株式や投資信託を売ってしまうことです。また、次に来るであろう調整局面を待って株を買おうと、現金を寝かせておくのも間違いです。たとえて言えば、熊をやり過ごそうと身を隠していて、牡牛とともに走る機会を失う、ということになるでしょうか。
 一九五四年までのS&P五〇〇種の動きを振り返ってみると、株価が急速に上昇する短い期間を逃してそれに乗り損ねることが、いかに高くつくかがよくわかります。この四〇年間、すべての現金を株に投資していたとしたら、年間の平均投資収益は一一.五%になったはずです。ところがこの間の、いちばん利益が上がった延べ四〇か月間に、もし株を持っていなかったとしたら、収益は二.七%に落ちてしまうことになります。
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 ベア・マーケットの問題に対処する簡単な方法があります。株式、あるいは株式投信を買うスケジュールを立てることです。少額の資金で毎月、または四カ月、六カ月に一度など、定まったときに買うことです。そうすれば、牡牛と熊のドラマから解放されるでしょう。
(3章 会社の一生)










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