敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか(第2章 それでも市場に勝ちたいなら)

チャールズ・エリス (著)  2003年12月4日


 市場に勝つ唯一の方法は、競争相手のミスを発見し、それを利用することである。それは可能であるし、一定の期間をとってみれば、ほとんどの投資家がやってきたことだ。しかし、長期にわたりコンスタントに市場に勝ち続けるほど、競争相手の裏をかき、出し抜いてきた例はほとんど見られない。
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 市場タイミングで繰り返し成功を味わった投資家もいないのである。欲望や恐怖心に駆られた選択はたいてい遅すぎるか、間違っているものだ。方向転換も難しい。特に現実の資金を使って、市場やプロを出し抜いて安く買って高く売ろうなどとすれば、悲惨な結果に終わるだけだろう。
 フィッシャー・ブラックは、「投資家が市場から撤退した時も参加した時も、市場の方は平均すれば同じように順調に上昇している。だから、買ってじっと待っているといった単純な戦略に比べ、市場から一時手を引くことは、かえって損をすることになる」と述べている。
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 市場のタイミングに賭けるべきでない理由の一つは、運用機関の実績を歴史的に見ると、現金比率をきわめて高くとった時でも、フル・インベストとした時と同様に相場が上昇しており、また下落の場合も同じ傾向が見られるということである。
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 過去七五年間という長期間で見た場合、株式リターンのほとんどの大部分は、上昇率ベストの六〇か月間に - この九〇〇カ月という長期間のわずか七%だが - 達成されているという。もしわれわれが、これがどの月かを見分けることができれば、その利益は測りしれない。しかし、それはまったく不可能なのだ。
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 過去七五年間のうち、ベストの五日を逃すと、利益は半減してしまう。この教訓は明らかである。投資家は、「稲妻が輝く瞬間」に市場に居合わせなければならないということだ。
 市場が下がった時に打って出て、高くなれば引き下がるといった能力を、一貫して発揮している大手の機関投資家など皆無である。市場の動きを予想して、株式と債券をシフトさせたり、あるいは株式とキャッシュをシフトさせたりする試みも、失敗する方がずっと多かったのである。
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 収益率を向上させるための第二の方法は、将来性のある銘柄の発掘にある。プロの投資家は、この仕事に異常なほど技術と時間と精力とを費やす。運用機関や証券会社のリサーチの大半は、個別銘柄の評価に向けられている。
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 しかし、こうした証券分析が、全体としては役に立っているとも利益をもたらしているとも思えない。運用機関がファンダメンタル分析に基づいて売却した株や買わなかった株でも、上昇することがしばしばある。
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 たとえば、一九九〇年代後半には、IT関連株に積極的に投資したものは、二〇〇〇年の「修正」までは素晴らしいリターンを収めた。一九八〇年代には、石油やテクノロジーへの投資についても同様だった。ただ、エネルギー関連株に関しては一九八一年までに撤退している必要があった。
 一九七〇年代前半には、俗に「ニフティ・フィフティ」と言われる大型成長株を買い増していたポートフォリオ・マネジャーは、悪名高いPER(株価収益率)に「二極化相場」のおかげで、例外的に良い成果をあげた。しかし、一九七〇年代後半になって、予想していたほど企業収益が伸びず、失望した投資家の投げ売りによって、PERの水準訂正を伴う暴落が起きた。大型成長株を抱えていた投資家はひどい損失を被ったのである。
 このような展開は歴史上何度も繰り返されてきた。そして、そのたびに投資家たちは、「今度こそは株は下がらない!」と言い続けてきたのである。
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 個別銘柄や業種について、株価とその潜在的価値の関係を突き止めよとする競争相手はあまりに多いし、あらゆる情報が瞬時に広く行き渡ってしまう。こうした中で、個別銘柄や株式グループから、競争相手が見落としたり取り残したものを見つけ出し、利用する機会に恵まれるといったことは、あまりありそうもない。
 長期に成功する一つの方法は、ミスを減らすことである。一生懸命やれば、それだけリターンが増えるというわけではないし、リターンを増やそうとしてより高いリスクを取れば、危険性もそれだけ高まる。
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 仮にあなたが上位一割以内に入るほど有能な投資家だとしよう。それでも注意は必要である。というのも、あなたが他のほとんどの投資家よりも有能だとしても、市場平均以下の投資をしている可能性の方が高い。それは統計を見れば明らかである。投資における成功とは、投資家自身の知識や能力そのものではなく、一つ一つの取引を、どれだけの知識と能力を持って処理しているかにかかっているからだ。
 しかも、ニューヨーク株式市場における取引の半分は、トップ五〇社の機関投資によって行われている。現実問題として、このトップ五〇社に勝つのは至難の業である。第五〇位の機関投資家ですら、毎年ウォール・ストリートに五〇〇〇万ドルの手数料を支払い、あらゆる証券会社のどんなアナリストからも常時、手厚いサービスを受けられる体制を整えている。ウォール・ストリートからは毎日、真っ先に新しい情報を伝えてくる電話が何百本もかかり、ブルームバーグなどの最新鋭の情報サービスを契約している。しばしば投資対象の企業トップとも連絡を取り合っている。
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 私たちがこのような機関投資家を相手に勝ち続けようとするのはそもそも無理な話である。トップ五〇社だけではなく、トップ一〇〇社に勝つのも不可能だろう。とすれば、最も有能な個人投資家でも、取引高では最下位の第四分位にすぎず、そういう扱いとなるだろう。
(第2章 - 第Ⅰ部 資産運用の本質)










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