敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか(第3章 「ミスター・マーケット」と「ミスター・バリュー」)

チャールズ・エリス (著)  2003年12月4日


 株式市場は短期的に乱高下するが、長期的な動きを予想するのは実はそれほど難しくない。株式市場というものを理解するためには、まず「ミスター・マーケット」と「ミスター・バリュー」という二つの登場人物を通して、マーケットそのものと、投資家としての自分の姿を正確に理解しなければならない。
 ミスター・マーケットは、とにかく面白いので、常に注目の的である。これに対してミスター・バリューは、気の毒にも無視されることが多い。やんちゃなミスター・マーケットは悪ふざけばかりしていて、ミスター・バリューの方はせっせとまじめに働いているのに、これではとても不公平である。
 ベンジャミン・グレアムによれば、ミスター・マーケットは精神的に不安定で、感情的な行動を取りがちである。有頂天になったかと思えば、お先真っ暗で絶望的な気分に浸ってしまう。とても気分屋なので、いつ気持ちがどちらに振れるかわからない。彼はなんとかして自分のその時の気分に私たちを引きずりこみ、売買をさせようとする。なるべく多くの取引をさせるために、頻繁に、時には激しく、価格を変える。
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 長期的には、ミスター・バリューはミスター・マーケットに必ず勝つ。ミスター・マーケットのどんないたずらもそう長くは続かない。実体経済においては、ミスター・マーケットが楽観的な時も悲観的な時も、財やサービスは普段どおり生産され流通する。長期投資で成功するには、ミスター・マーケットに惑わされずに、しっかりと自分の投資政策を堅持しなければならない。
 毎日の「天気」と「気候」は別物である。「天気」は短期的な現象、「気候」は長期的な現実を指す。この違いは重要である。気候のよい場所に住みたいと思った場合、先週の天気だけを参考にしても無意味である。同様に、長期投資を行う時に、一時的なマーケットの上下に振り回されてはならないのである。
 日々のマーケットの動向は「気候」にとっての日々の「天気」と同様に、それほど重要ではない。ミスター・マーケットを無視して、実態としての企業に対する投資、すなわち、企業収益と配当の成長に注目しなければならない。
 ミスター・マーケットは、予想外の短期的な価格変動で投資家の関心を引こうとする。これを無視するには、マーケットの歴史を勉強しなければならない。歴史を勉強することの重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。過去にマーケットがどう変動してきたかを知ることで、将来の予想も容易になる。一見不合理に見えるマーケットの動きも、合理的に理解することができるようになる。少なくとも、ミスター・マーケットの短期的ないたずらによって、長期的な投資政策から脱線するということはなくなるだろう。歴史を知れば知るほど、マーケットの日々の動向に右往左往することも少なくなる。新人ドライバーが当然起こるべき事故に遭って驚くのと同様、無知な投資家もマーケットの「異常」に合って肝をつぶす。しかし歴史的に見れば、びっくりするような市場動向などめったにあるものではない。マーケットでも時おり「異常事態」は起きるが、統計的にはそれも予想の範囲内なのである。
 もちろん、マーケットの「暴落」が減れば、投資のパフォーマンスはずいぶん改善するだろう。しかし、短期的には、そうしたマーケットの予期せざる展開や出来事は避けられない。そして長期的には、運用成果は「平均値に回帰」するものなのだ。短期的に高い収益が得られれば投資家は喜ぶが、長い目で見れば、この超過収益は消えてしまうだろう。
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 投資で成功するうえでの最大の難関は、頭を使うことではなく、感情をコントロールすることである。マーケットという、きわめて情緒的な環境の下で、冷静で合理的であり続けるのは決して容易ではない。難しいのは最善の投資政策を作成することではない。むしろ、乱高下するマーケットに惑わされずに、当初の投資政策を堅持し続けることである。ミスター・マーケットが投資家を振り回そうとたゆまず踊り続ける中、これは決して生易しいことではない。マーケットの「天井」と「底」においては特に注意が必要である。
 アダム・スミスも述べているように、「自分というものをきちんと理解していなければ、投資で成功できるはずはない」。人間は感情的な動物である。より働けばそれだけ多くの成果が得られてしかるべきだとも思っている。まったく非合理な生き物なのである。
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 ○ 人間は心配性である。一年で10%上がる投資の一カ月ごとの上昇率は一%にも満たない。一日単位の上昇率はほとんどゼロに近い。したがって、毎日の株価の動きを気にしても意味がない。ところが実際には、毎日欠かさず株価をチェックする投資家は少なくない。株価などは、四半期に一度見れば本当は十分なのである。
 ○ 人間は楽観的である。しかし投資においては、楽観的であるよりも、客観的で現実的であることの方がはるかに重要である
 ○ 人間は間違いを認めたがらない。投資家が自分の投資成果をしばしば過大評価していることは、多くの研究が示すとおりである。投資家は自分に対してさえ間違いを認めたがらない。
 ○ 人間は感情的である。株価が上がれば笑い、下がれば泣く。価格の変動が激しいほど、泣き笑いも激しくなる。

 プライドと恐れ、欲望と喜び、心配などといった感情は、投資の最大の「敵」である。これらに振り回されていれば、「ミスター・マーケット」の思うつぼである。ほとんどの投資家は、このように「ミスター・マーケット」の術中にまんまとはまってしまう。
 投資はまず己を知ることから始まるというのは、このためである。投資において成功するには、「知力」だけではなく、「感情力」も必要なのだ。 
 「知力」として重要なのは、金融データを読む能力(バランスシートや資金繰り表、収支状況など)、記憶力、分析力などである。「感情力」は、ミスター・マーケットが日々引き起こす混乱に呑み込まれずに、冷静でいられる能力である。
 どのような投資家にも得意分野があり、また「冷静でいられる投資範囲」がある。この両者が交わる範囲でポジジョンを取るべきである。何が起きても「冷静でいられる範囲」を逸脱してはならない。感情的になっては投資での成功はありえないからだ。
(第3章 - 第Ⅰ部 資産運用の本質)










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