敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか(第12章 運用成果測定の狙いとは何か)

チャールズ・エリス (著)  2003年12月4日


 コインを投げる場合、過去の結果は将来を予測するうえで必ずしも参考とならない。遅かれ早かれ、すべての参加者の成績は「平均値」へと近づいていく。統計学者が「平均への回帰」と呼ぶ現象である。この現象は、運用成果をよりよく理解するための一つのカギである。
  ・
  ・
  ・
 長期のパフォーマンス・データには、脱落した運用機関のデータが含まれないだけでなく、最近参入した運用機関のデータが強調されるという偏りがある。新設の運用機関の場合、ファンド・マネジャーが過去数年、元の職場であげた良好な成績をPRすることが普通である。高い成績をあげ続けられれば、多くの新しい投資家を獲得できるだろうし、成績が低迷しているかに見える老舗の運用機関は、投資家を失うかもしれない。成績の最も劣る運用機関は倒産するだろう(他のどの分野でもそうであるように、運用上の失敗はなかったものとして葬り去られ、統計に残らない)。つまり、今日資産運用に携わるファンド・マネジャーは、二五年前か五〇年前のファンド・マネジャーと比べると、統計上、やや高めのパフォーマンスをあげているからのように見える。また、運用機関の宣伝広告も、最も成果の高いファンド・マネジャーに焦点を当てるため、投資家は成績の良いマネジャーのことばかり聞かされることになる。
  ・
  ・
  ・
 明らかに優れて見るパフォーマンスが、運用機関の「腕」によるものなのか、「運」によるものなのかを知るためには、長期にわたる測定が必要である。ファンド・マネジャーが本当に優秀なのか、単に運が強かったのかを測定するに十分なデータが蓄積された頃には、投資家はおそらく高齢で死んでしまっているだろう。
  ・
  ・
  ・
 個人投資家なら誰でも「モーニングスター」の格付けを見たことがあるだろう。しかし、この格付けが、過去一年間の成績だけに基づいており、しかも同種のファンドと比較してではなく、戦略やスタイルの異なるすべてのファンドを比較して作成されているということを、モーニングスター自信も認めている。この事実をどれだけの投資家が知っているだろうか。まともな投資家ならば、直近のパフォーマンスは将来的なパフォーマンスを予想するうえで役に立たないことぐらい誰でも知っているし、投資の実力を判断するのに一年というスパンはあまりに短い。つまり、最もよく知られている格付けでも、投資方針を決定するためにはほとんど役に立たないのである。
 実際、モーニングスターもその格付けが将来的なパフォーマンスの予想にほとんど役立たないことを率直に認めている。にもかかわらず、新規の投資信託のほぼ一〇〇%はモーニングスターの「五つ星」あるいは「四つ星」投資先に流れている
 現実には、モーニングスターの格付けで「五つ星」を獲得したファンドのほとんどは、その二五%相対的に高いリスクにかかわらず、その翌年には市場平均の半分以下のリターンしか獲得していない。一九九〇年代には成長株のリターンが高かったが、成長株が目覚ましいリターンをあげ始めた一九九六年の時点でも、モーニングスターは成長株に対して平均以下の「二.八」星の評価しか与えていない(逆に成長株のパフォーマンスが鈍化し始めた二〇〇〇年には、「四つ星」に格上げされた)。モーニングスターが一九八〇年代に高い格付けを与えたファンド(市場よりも平均二.八%高いリターンをあげた)は、一九九〇年代には市場を一.七%も下回った。
  ・
  ・
  ・
 株や債券の取引が主としてプロによってなされるようになった今日では、価格形成メカニズムは、統計学者の言うところの「オープンで公平」なものである。このように厳しい競争環境の下では、一つの運用機関が圧倒的に高いパフォーマンスを収め、かつそれを維持することは、ほとんど不可能に近い。
 したがって、超長期においては、ほとんどのプロの投資家が獲得する収益の平均または中央値は、S&Pインデックスのような市場平均値から最低一%ほど差し引いたものとなるだろう。最低一%差引く必要があるのは、投資顧問料、売買手数料、保管手数料など、毎年の経費を考慮する必要があるからである。その結果プロのファンド・マネジャーの運用成果は、マーケットを下回るものとなるだろう。これらは、運用成果を測定した調査・研究が一貫して示してきた結論である。
  ・
  ・
  ・
 全投資信託のうち、実に四分の三近く(一六%プラス五七%)は市場水準並みか、それを下回った。五〇年間で、常に市場水準を二%以上上回るリターンを確保した投資信託は、全体のわずか二%にすぎない(しかも、これは税引前の話である)。アクティブ運用にとって決して分のよい数字ではない。
  ・
  ・
  ・
 確かに、われわれ投資家は、収益が高いことは良いことだと考えがちである。このことは長期においては間違ってはいない。しかし、短期において成績が期待水準よりも離れることは、たとえ収益が期待を上回っていたとしても、マネジャーが果たすべき責務を果たしていないことを示している。そして、マネジャーが果たすべき責務を果たしていない時、ポートフォリオに対するコントロールも失っていることが多い。長期的には、これはパフォーマンスの低下を意味する可能性が高い。
(第12章 運用成果測定の狙いは何か - 第Ⅱ部 運用理論の基礎)










← 第10章                                                    第13章 →
トップページ