敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか(第15章 個人投資家にとって何が問題か)

チャールズ・エリス (著)  2003年12月4日


 個人が機関投資家と異なるもう一つの点はお金がしばしば重大な象徴的意味を持ち、人間の感情に強く影響を及ぼすということである。冷静かつ合理的であることは、投資で成功する最大の秘訣である。しかし、現実には感情的な判断を下したことのない投資家などいないだろう。財産が自分自身の価値を示すと感じている投資家もいる。
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 あらゆる投資家は一つの恐るべき、そしてあまりにも過少評価されている共通の敵を持っている。それはインフレーションという、極めて侮りがたい敵である。
 インフレの脅威は、ほとんどの投資家を悩ませる、毎日ないし循環的な相場変動に関連しているからではない。インフレの、じわじわと浸食していく力こそが本当に恐ろしいからだ。年率三%のインフレが続けば、購買力は二四年で半減する。年率五%のインフレが続けば、購買力は一五年以内に半減する。次の一五年間で、さらにその半分になる。年率七%のインフレが続けば、あなたの購買力は二一年間に現状の二五%まで落ちる。
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 あなたが買う株の価格が低ければ低いほど、あなたの投資一〇〇〇ドル当たりの株数は多くなり、それだけ配当金額も多くなる。したがって、もしあなたが他のほとんどの投資家と同様、こつこつとお金を貯め、今後とも株を買い続けていくとすれば、あなたにとって本当に有利なのは、奇妙な事ことではあるが株価が大きく値下がりし、低迷を続けることである。そうすれば、同じ金額でも、より多くの株数をより安い価格で買い続け、その結果、より多くの配当を得ることができる。
 株価が下がり低迷することが、あなたにとってベストであり、現在投資する資金から将来、より多くの配当収入を得る権利を手に入れることができる。
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 ほとんどの投資家は非常に人間的で、相場の値上がりを望み、すでに十分値上がりしてしまった株式を熱心に買い増していく傾向がある。結果は配当収入からの再投資収益率を明らかに下げることになる(一株を高く買っても安く買っても、一株当たりの配当収入は変わらない)。同様に、ほとんどの投資家は株価下落の後に非常に消極的になり、株価がすでに低く、したがって将来の配当率が高いのに、間違ったタイミングで売りたくなるものである。
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 あなたは群集心理に巻き込まれて、株価が上がった時に飛びついて買い、下がった時に慌てて売るといった誘惑に打ち勝てるように、自分自身を訓練していかねばならない。
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 多くの投資家に共通する特徴は、日々の株価の動きに引きずられることである。理論的には株価変動のほとんどはいわゆるノイズ(雑音)、すなわち法則性のない無意味な動きである。
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 したがって全体の株価変動の九八%以上が単なるノイズと呼んでよい。投資家は株価のダンスをまったく無視すべきであり、これは投資にとって非常に大事なことである。親が子供の反抗期をじっと我慢しなければならないのと同じように、投資家もマーケットの乱高下を黙って我慢しなければならない。
 私がウォール・ストリートで働き始めた最初の年、MBAを取得したばかりの人たちと一緒に、ある研修プログラムに参加した。その研修の最後の講師は、長年投資において成功を収め、莫大な資産を築いた人だった。私たち新人投資家に対する彼のアドバイスな何か、と聞かれると、彼はじっと考え込んだ後に、こう言い放った。「損を出さないことだ」。四〇年前にはこれを聞いた時には十分理解できなかったが、今にして思うと、これは実に的を討たアドバイスである。大きな損をしないこと。短期の小さな損は投資につきものである。マーケットとは上下するものであり、多少のリスクを犯さなければリターンは期待できない。しかし、無謀なリスクを取ってはならない。
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 もしあなたが上昇相場で興奮してしまい、下げ相場ですっかり落ち込むようなことがあるとすれば、それは考え直した方がよい。
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 どっしり構えて動じないことこそ、長期的投資において成功する秘訣である。
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 幸運なことに、すべての投資家にとって投資信託という手段がある。特に興味深い二つのタイプの投信がある。第一のタイプはインデックス・ファンドである。コストや手数料が安く、いくつかの市場指標、たとえばS&P五〇〇とか、ラッセル二〇〇〇などと同様の動きをするように設計されている。
 もう一つの例がクローズド・エンド型の投信である。特に額面以下で売り出され、規約より一定期間、たとえば五年間でオープン・エンド型への変更を義務付けられているようなタイプがある。こうしたファンドで、現在、「成長株投資」、「割安株投資」といった長期の運用スタイルが不調で、いわばシーズン・オフに買えるような場合に、特に旨みがある。
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 ロスチャイルド家の莫大な富を築いたネイサン・メイヤー・ロスチャイルドは、「資産を築き上げるには大変な勇気と注意が必要だが、これを維持していくためにはその一〇倍もの知恵がいる」と言っている。
 これから述べる個人投資家のための十戒は、あなたが投資の意思決定を行っていくうえで役に立つと思う。
 1.投機的判断で動いてはいけない。 ・・・
 2.貯蓄すること。
 3.税務上有利と言う理由で動いてはいけない。 ・・・
 4.自分の住宅を投資資産と考えてはいけない。 ・・・
 5.商品取引は考え物である。 ・・・
 6.証券会社の担当の人に気をつけなさい。 ・・・
 7.いわゆる新金融商品に投資してはならない。 ・・・
 8.債券は元本、利息が安全だとか、リスクが少ないと聞いて、債券に投資してはいけない。 ・・・
 9.長期の投資目的と投資方針、資産計画を文書にして書き出し、それに沿って行動すること。 ・・・
 10.直観を信じてはいけない。 ・・・
(第15章 個人投資家にとって何が問題か - 第Ⅲ部 個人投資家への助言)










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