ピーター・リンチの株式投資の法則(第2章 週末の不安者)

ピーター・リンチ (著), 酒巻 英雄 (監訳) 2002年3月14日


○ はじめに
 株式で儲けるための鍵は、強い意志にある。この点は強調しすぎることはない。毎年、株や投資信託の選び方についての本が洪水のように出版される。しかし、この手の本はすべて投資家に強い意志がなければ、役に立たない。ダイエットと株式投資の結果を決めるのは、頭ではなく意志である。
 ときとして知識そのものが有害になることがある。経済について考え悩まず、おうように市場の状態を無視して、定期的に投資している人の方が、勉強して投資のタイミングを計ろうと、確信があるときに株へ入っていき、不安を感じるときに逃げ出す人よりも、うまくいっている。
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 地球温暖化、地球冷却化、悪の帝国ソビエト、悪の帝国ソビエトの崩壊、景気後退、インフレ、識字率の低下、医療コストの増加、イスラム原理主義、財政赤字、頭脳流出、民族紛争、組織犯罪、テロリズム、セックス・スキャンダル、マネー・スキャンダル、と憂鬱の種はつきない。
 ニュースを追っていくことは、株式を持たない人々にとっては、ただ気を滅入らせるにすぎないが、投資家には危険な習慣である。
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 八七年に我々が心配したことは、ドルの急落、外国企業のダンピング、イラン・イラク戦争による世界的な原油不足、海外投資家の市場離れ、消費者が重い借金を背負って消費が低迷していること、レーガン三選の可能性などだ。
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 私はタクシー運転手が債券を薦めたり、理髪師が「プット(株が下がると価格が上がる)」をどうして買ったかを自慢するのを耳にした。「靴磨きの少年までもが株を買っているときはすべて株を売れ」というバーナード・バルークの言葉が正しいのなら、間違いなく、株を買うべき正しい時期は、彼らがプットに目をつけたときである。
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 私は「砂漠の嵐」作戦が長く血に染まる戦いになる可能性があることを知っていたが、一方で、株式投資家としての私は、投資家の売りが広がった結果、驚くほどの掘り出し物が株式市場にあることにも気づいた。マゼラン・ファンドを運用していたときのように何百万株を動かすことはなかったが、自分の口座の持ち株を増やし、ポートフォリオ運用を手伝っている寄付金信託や公的な基金では株を増やした。
 これは、訓練された株式投資家が、有望銘柄を見つけ出すにはうってつけの状況であった。ニュースの見出しは否定的であり、ダウ平均は夏から初秋にかけ、すでに六〇〇ポイント下落して、タクシー運転手は債券を薦め、ファンド・マネジャーの多くが現金のウエイトを引き上げ、そして、少なくとも五人のパネリスト仲間が厳しい景気後退を予想していた。
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 九一年、私たちが座談会に集まった週に、『バロンズ』は「不安と恐怖が市場に重く暗い影を投げかけている」と述べている。そしてその後、市場が大きく急騰してダウが市場最高値をつけた。
(第2章 週末の不安者)

○ 大局観を待て
 自分自身に「わかった、次に株式市場が下がるときは悪いニュースを無視して、割安株を拾おう」と言うのは簡単だ。しかし、一つひとつの危機が過去よりも悪く見えるので、それらを無視するのは、至難の業である。おびえて株式から逃げない最善の方法は、定期的に買うことである。
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 タイミングを計り、ひらめきで投資することの持つ問題は、人々は必ず、市場が六〇〇ポイント上昇して割高になっているときは、気分が大らかになりすぎ、六〇〇ポイント下落して割安銘柄がいっぱいあるときは、委縮しすぎてしまうことである。もし、規則正しく株式を購入しないのであれば、信念を持ち続けるために、何らかの方法を見つけなさい。
 信念を持ち続けることと銘柄を選ぶことは、ふつう同じレベルで議論されないが、銘柄選びの成否は前者にかかっている。あなたが財務諸表やPER(株価を一株当たり利益で割ったもの。通常は、低いほど株価は割安といえる)について世界一の専門家だとしても、信念がなければ、否定的なニュースの見出しに影響されてしまうかもしれない。よいファンドを買っても、信念がなければ、最も悪いと思うとき、つまり、間違いなく株価が最も安いときに、手放してしまうことになるだろう。ある観点において不安や絶望を感じる時はいつでも、私はもっと大きな観点から物事を見ようと努める。
 つまり、過去七〇年間で、株式を保有する者は平均で毎年一一パーセントのリターンを得られた。一方、短期や長期の財務証券やCDからのリターンはその半分以下であった。今世紀に起きた大小あらゆる災難にもかかわらず、そして、世界が終わりになるかもしれない何千もの根拠にもかかわらず、株式は債券の倍以上のリターンをもたらした。この事実に基づいて行動することは、次に来る恐慌を予想する評論家や投資顧問二〇〇人の意見に基づいて行動するよりも、長期的にずっと実りのあるものであろう。
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 株式の下落は驚くべき出来事でなく、繰り返し起こるもので、ミネソタの極寒の大気のように当たり前のことである。寒い気候のなかで生活していれば、気温が氷点下に下がることには慣れっこになり、外気が零度以下に下がっても、次の氷河期が始まったと考えはしない。防寒具を着込み、道路の雪を除く。時が経てば暖かくなることはわかっている。
 成功している株式投資家は、市場の下落に対して、ミネソタの人が氷点下の気候に対するのと同じような感覚を持っている。下げが来れば、乗り切る準備をし、好きな株が他の株と一緒に下がったとき、そのチャンスに買い増しをする。
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 四〇回も株価の調整があったということは、この先にも、有望銘柄をバーゲン価格で買えるチャンスがあるということだ。
(第2章 週末の不安者)









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