ピーター・リンチの株式投資の法則(第8章 株式ショッピング 小売業界)

ピーター・リンチ (著), 酒巻 英雄 (監訳) 2002年3月14日


○ はじめに
 バーリントン・モールは、私の家があるマーブルヘッドから二五マイルほど離れたところにある。それはとても大きなモールで、全米で四五〇かそこいらしかないものであるし、株の勉強をするにはもってこいの場所である。業績が上向いている企業のなのか、落ちぎみの企業なのか、倒産しそうな企業なのか、または、転換点を迎えて回復に向かう企業なのかなど、プロ、アマの投資家を問わず、毎日いつでも調査できるのだ。投資戦略を考える上では、ショッピング・モールをうろうろしていたほうが、証券会社のアドバイスに忠実に従ったり、最新の情報をほんの少しばかり得るために金融情報誌を徹底的に調べるよりずっと役に立つ。
 いつの時代も、大きく株価が値上がりする小売企業は、何百万という消費者がいつも押しかけるところにある。
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 私にとってはショッピングをする場ではなく、将来、投資の対象になるかもしれない企業群を分析する場なのだ。月次の投資会議で、報告されるより確かな将来の見通しがここで得られるのだ。
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 人々が同じような食べ物やファッションを好むことで、退屈な文化が形成される。しかし、人々が同じようなものを好むからこそ、小売企業や外食企業の株を持つことで、財を成すこともできるのである。ドーナツ、ソフト・ドリンク、ハンバーガー、ビデオ、介護保険、靴下、ドレス、園芸用品、ヨーグルト、葬式の手配など、ある町で売れるものは、たいていほかの町でも間違いなく満足のいく販売成績を収められる。
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 一〇〇倍になったラビッツ・ファニチャーを紹介されて以来、私は小売企業が大好きである。小売企業は、いつも成功するとはかぎらないが、少なくとも、ビジネスの進展具合をチェックすることが簡単であり、そこがまた、魅力なのである。一連の店がある地域で事業を成功させ、そして他の地域に進出し、いくつかの地域でも成功を収めたということを確認してから、その企業への投資をしても遅くはない。
 ショッピング・モールの従業員は、インサイダーの強みを持っている。毎日起こっていることを見ているわけだし、自分の同僚から、どの店がはやっていて、どの店の客入りが悪いかといった情報も得られるからだ。
 ショッピング・モールのマネジャーは、最も有利な立場にいる。賃借料を計算する際に使われる月次の売上高の数字を入手できるからである。ギャップやリミテッドの店舗が、毎月毎月、成功を収めていることを見ながら、これら企業の株を保有していない店の経営者がいたならば、どうかしているとしか言いようがない。
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 二,三年前、私たちが、食卓を囲んでいるとき、娘のアニーが「クリアリー・カナディアンは上場会社なの」と尋ねた。この種の質問は、私たち家族ではよくされる質問であった。家の冷蔵庫が、クリアリー・カナディアンの瓶でいっぱいだったので、娘たちがこの新しい炭酸飲料水を気に入っていることは、すでに気がついていた。私は、この大事なヒントをしっかり自分のものにすることを怠ってしまった。S&Pのストックガイドを調べてみたが、上場されていなかったので、即座に忘れてしまっていたのだ。
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 私は、チリス・レストランに関する娘たちの貴重な報告も無視してしまった。三人の娘は、しょっちゅう、グリーンのチリスのスウェットを着て寝ていた。それを思い出すたびに、もっと真剣に、娘たちの投資カウンセリングに耳を傾けていればよかったと後悔の念にかられる。何人の親が、子供たちと一緒にショッピング・モールにも行かず、隣人の電話の噂話につられて、金鉱株や、不動産株に投資したことだろう。ショッピング・モールで、子供たちは、真っ先にギャップに向かう。ギャップは、八六年から九一年までに一〇〇〇パーセントのリターンをもたらしたのである。
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 クリスマスの前、「クリスマスプレゼント旅行」と銘打って三人の娘を連れて、バーリントン・モールへ行ったが、私にとっては、調査旅行に他ならなかった。私を娘たちのお気に入りの店に連れていって貰いたかったのである。過去の経験に基づけば、それは間違いなく買いシグナルとなる。ギャップは、いつものように混雑していた。しかし、娘たちが真っ先に向かったのは、ギャップではなく、ボディショップであった。
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 何年にもわたる成長が見込まれながらも、ボディショップは、注意深く事業を拡大させてきた。ふつう、急速に事業を拡大させている小売企業への投資は避けたいものだ。借入金により事業拡大を行っている企業の場合は、特にそうである。
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 私は、ボディショップに行ったことを、ポーカー仲間の一人に話してみたところ、彼の奥さんも、娘さんもその店を気に入っているということだった。四五歳の主婦も、一三歳の女の子も同じ店に夢中になっているのであれば、調査を始めるべきである。
 既存店売上高は順調、拡張計画も現実的、バランス・シートも強固、そしてこの企業は、年率二〇~三〇パーセントで成長していた。この話のどこに欠陥があっただろうか。PERはS&Pの予想一株あたり利益を用いると、四二倍である。
 どんな成長企業でも、予想ベースで、一株当たり利益の四〇倍まで買われているとすれば、株価は危険水準にまでいっているといえよう。たいていのケースでは、買われすぎである。経験則によると、成長率、つまりは、毎年の増益率と同じかそれ以下のPERで、株は売られるべきである。どんなに急成長を遂げている企業であっても、成長率が二五パーセントを超えることは稀であり、四〇パーセント成長となるとめったにないといってもよかろう。そのようなとてつもない成長は、長くは続かないし、急成長を遂げた企業は、自滅する傾向がある。
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 一五パーセント成長で、三〇倍の株価がついているコカ・コーラと、三〇パーセント成長で、四〇倍の株価がついているボディショップとどちらを所有するかということになれば、私なら後者を選ぶ。高PERで、急成長を遂げている企業の株は、低PERで低成長の企業の株を、結局はアウトパフォームするであろう。
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 会社自体は好きだが、現在の株価が気に入らないという状況を打破するためには、いまのところは少額投資にとどめ、株価が下がったところで買いますのが一番よい方法であろう。
 ボディショップであろうと、ウォルマートであろうと、トイザラスであろうと、急成長を遂げている小売企業の一番の魅力的な点は、これらの企業を理解するために、時間がたっぷりとれるということである。物事がはっきりするまで投資を控える時間的余裕がある。アニータ・ロディックが、ガレージで自然化粧品の製造を試行錯誤している間は、急いで株を買う必要はない。ボディショップが、英国で一〇〇店舗開業したとき、または、世界中で三〇〇から四〇〇店舗開業したときでさえ買い急ぐ必要はないのである。新規公開後、八年経って、娘が私をバーリントン・モールにある店に連れていったときですら、遅すぎることはなかったのである。
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 小売業や外食業の増益と株価上昇をもたらす一番の源は、売上の拡大である。既存店売上高が伸びているかぎり、その企業は、過剰負債で苦しむことはないし、報告書で株主に対して述べているような拡張計画が順調に進んでいることになる。結果、その株をずっと保有していても、たいていはわりにあう投資となろう。
(弟8章 株式ショッピング 小売業)









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