ピーター・リンチの株式投資の法則(第10章 悪いニュースでも儲ける)

ピーター・リンチ (著), 酒巻 英雄 (監訳) 2002年3月14日


○ はじめに
 一九九一年の年末、危険地帯はすべて住宅と不動産投資とに関係があった。不動産は二年以上もの間、米国で最も恐ろしい投資対象とされてきた。かの有名な商業用不動産価値の崩壊は住宅用不動産にまで影響を与えるであろうと噂されていた。住宅価格が暴落するという噂があったため、売り急ぐものも現われてきた。
  ・
  ・
  ・
 中級住宅の価格が九〇年、そして九一年も上昇しているというニュースはあまり知られていなかったので、『バロンズ』の座談会で指摘したところ、誰一人として信じる者はいなかった。そのうえ金利が下がったため、一〇年以上もの間で住宅は最も買いやすい環境にあった。住宅取得可能指数が非常に良好であったので、景気後退が永遠に続かない限り、住宅市場の改善は必ずやってくる状態にあった。
 隠れた事実が改善方向を指し示していたにもかかわらず、オピニオン・リーダーの間ではまだ不動産価格の崩壊が心配されており、どんな企業であれ、少しでも住宅建設や住宅金融に関係があると、その株価はさえないままであった。
 トール・ブラザーズという有名な建築会社を調べてみた。トール・ブラザーズの株価は12ドル5/8から2ドル3/8と五分の一になっていた。
 私がトール・ブラザーズをさらに調べることにしたのは、この会社は手元資金が豊富で、事業環境が悪いときにも耐えられる財務体質のよい企業であると認識していたからだ。
  ・
  ・
  ・
 資本力が貧弱な競合他社の多くが倒産していくなか、私はトール・ブラザーズが景気後退の後、住宅市場におけるシェアをいっそう拡大しているのであろうと考えた。長い目で見れば、この業界の落ち込みはトール・ブラザーズにとってプラスになるのだ。
 では、トール・ブラザーズの株価を五分の一にしてしまった要因はどこにあったのだろうか。私は、原因究明のために直近の事業報告書を読んでみた。負債は二八〇〇万ドル減少、現金は二二〇〇万ドル増加、つまりバランス・シートはこの苦しい時期に改善を見せている。受注も同様に改善していた。トール・ブラザーズは受注残を二年分も抱えていた。どちらかといえば、受注残は多すぎるぐらいであった。
 また、新規事業もいくつか取り組んでおり、景気回復時の恩恵をより多く受けることのできる状態にあった。住宅市場が空前の活況を呈さなくても、トール・ブラザーズは最高益を更新することができるのである。
 私はどんなに興奮したか。負債が非常に少額で、二年間もの業績を保証する受注残を抱え、競合他社は落伍し、しかも株価は九一年の高値から五分の一になっているという銘柄を見つけたのだから。
(弟10章 悪いニュースでも儲かる)

○ ピア・ワン・インポーツ
 小売業者を評価するときにいつも使う指標としては、これまでに検討したもののほかに在庫を常に見ることにしている。在庫が適正水準以上に増加しているときは、経営者が売上高の伸びが低いという問題を隠すための工作をしている危険がある。最終的には、売れ残った商品の安売りを強いられ、問題が明るみに出るのである
(弟10章 悪いニュースでも儲かる)

○ サンベルト・ナーサリー
 サンベルトは園芸店チェーンである。住宅市場が持ち直せば、園芸もランプシェードや食器棚と同様に、回復するに違いないと思った。新しい家は樹木、生け垣、窓辺を飾るプランターが必要となる。
  ・
  ・
  ・
 サンベルトの新規公開は8ドル50で成功を収めた。この資金のおかげで、健全な財務体質で独自の事業を営み始めることができた。負債はゼロ、一株当たりの現金は二ドルであった。計画では、その現金で、九八あるうちの優良店舗の改装をしてさらに利益率の向上を図り、不採算店舗をいくつか整理することになっていた。
  ・
  ・
  ・
 サンベルトを『バロンズ』の候補銘柄として考えていたとき、年末の税金対策の売りで、株価は買わずにはいられないほど安い5ドルにまで下がった。利益が伸びなかったある四半期決算を終えたとき、これは園芸市場に天災があったためだが、サンベルトの時価総額は半分くらいになっていた。
 買い増しのできる勇気がある投資家にとっては、またとないチャンスであった。二か月前に8ドル50で新規公開したにもかかわらず、5ドルの株価がついているのである。まだ一株当たり二ドルの現金を持ち、改装計画はそっくりそのまま残っている。5ドルという株価は、この会社の純資産の五ドル七〇より低く、九二年の予想一株当たり利益が五〇~六〇セントなので、PERは一〇倍を少し切る水準であった。サンベルトは一五パーセントで成長することが見込める企業である。他の園芸業者は純資産の二倍、PERは二〇倍で買われていた。
 住宅を取得するときに近所で売却された同じような家の価格とよく比較するが、それと同じことを企業の価値を推定するのに応用してみよう。一株当たりの価格5ドルをサンベルトの発行済株式数の六二〇万株とかけると、三一〇〇万ドルがこの会社全体と九八店舗の市場価格であることがわかる。
(弟10章 悪いニュースでも儲かる)

○ ゼネラル・ホスト
 当初、私の注意を引いたのは、この会社が長期計画で自社株買いを計画していたことだ。つい先ごろも、10ドルで自社株買いを行っている、ということは、ゼネラル・ホストの株は一株当たり10ドル以上の価値があるということを示唆している。そうでなければ、自社株買いの資金は無駄に使われたことになってしまう。
  ・
  ・
  ・
 数年前、エクソンの株価が非常に低迷し、八~九パーセントの配当利回りがあった当時、エクソンは八~九パーセントのコストで資金を調達し、配当支払義務のある株を何百万も買い戻すことができた。借入金の金利は税金控除対象になるので、実際のコストは約五パーセント程度で八~九%の配当支払い分を節約することができた。この単純な操作で、一滴の石油も精製することなくキャッシュ・フローを増加させることができた。
 ゼネラル・ホストの株価が、ごく最近の自社株買いが行われた価格より低くなっていることに興味を覚えた。企業自身が支払った金額より株価が安くなったときは、十分に買いを検討する余地がある。いわゆるインサイダーである役員などが、時価より高い価格で株式購入を行ったときも、よい兆候ととらえてよい。
  ・
  ・
  ・
 興味をそそる事実は、ゼネラル・ホストの純資産は一株当たり九ドルで、これは株価の七ドルを上回っていた。言い換えると、株を購入する人は、七ドルで九ドルの価値のある資産を得ることになる。私流の賢い投資である。
  ・
  ・
  ・
 株主資本のうち、六五〇〇万ドルは現金であるため、一部は確かに安定性がある。現金は現金である。残りの八三〇〇万ドルが確かかどうかは、資産の性格による。
 バランス・シートの左側、資産の部であるが、これはかなりあいまいな記述なのだ。ここに含まれているものは、不動産、機器やその他備品、在庫などで、これらは企業が主張するような価値のない場合がある。製鉄所が四〇〇〇万ドルと記載されているとしても、時代遅れの設備であれば、ゼロの価値しかないこともあろう。また、不動産も、購入時の価格で掲載されているが、市場価格はそれを下回っているかもしれない。無論、その反対のケースのほうが多いのだけれども。
  ・
  ・
  ・
 負債比率の高い企業にとって、銀行借入れは危険である。というのは、もし経営に問題が起きたら、銀行は借入金の返済を求めるからである。こうしたことで、解決可能な状態が、取り返しのつかない状態になってしまうことがある。
(弟10章 悪いニュースでも儲かる)









← 第9章                                                      第12章 →
トップページ