ピーター・リンチの株式投資の法則(第14章 循環株は行ったり来たり)

ピーター・リンチ (著), 酒巻 英雄 (監訳) 2002年3月14日


○ はじめに
 景気低迷期になると、プロのファンド・マネジャーは循環株への投資を考えはじめる。アルミ、鉄、鋼、紙、自動車、化学業界や、航空業界の好景気から景気後退そしてまた回復へというパターンはよく知られており、季節の変化のように必ずやって来るものである。
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 通常、PERが低いことはよいことであると思われているが、循環株の場合は例外だ。循環株のPERが低いときは、たいてい好景気の末期であることを示している。事業環境がよく、企業収益が上がっているからと油断して、循環株を保有し続けていると、状況は一変する。賢明な投資家はその前に売却して、売却ラッシュを避けてしまう。
 大勢の人が売りを出すと、株価は一方向に行くしかない。株価が下がれば、PERも下がる、これを新米の投資家は循環株が以前より買いやすくなったと判断する。これで傷をまた深くするわけである。
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 反対に、PERが高いとき、これは通常悪いこととされているが、循環株の買い時であろう。たいていの場合、企業が最悪期を脱しつつあることを高PERは意味し、事業はほどなく回復し、利益はアナリストの予想を上回るようになり、ファンド・マネジャーが熱心に買い物をいれるようになる。
 循環株への投資は、先取りのゲームであるため、儲けるのはふつう以上にむずかしい。最も危険なことは、買いタイミングが早過ぎることである。株価が思うように上がらないことに失望し、待ちきれずに売ってしまうからだ。実務知識もなく、業界のリズムも知らずに(銅、アルミ、鉄、自動車、紙などなんでも)、循環株に投資するのは非常にリスクの高いことである。
 私自身の循環株との相性はまずまずといったところで、景気後退期がやってくるたびに、このグループの株に注目することにしている。私は物事を明るくとらえるほうなので、たとえどんなに景気の悪いニュースが新聞紙上をうめていても、経済は必ず回復すと信じ、すすんで底値の循環株を買う。こうした企業にとってこれ以上悪い状態はないというときから、物事はよくなっていく。利益が低迷している循環株が復活するためには、よい財務体質が不可欠である。
(弟14章 循環株は行ったり来たり)

○ フェルプス・ドッジ
 以前に少し投資をしたことがあったので、銅について若干の知識があったし、たとえばアルミのような商品より価値があると確信していた。アルミの埋蔵量は比較的多く、そのうえ採掘も比較的楽である。銅は、まず第一にアルミより希少価値があり、鉱山はある程度すると枯渇してしまう。銅を産出できなくなるか、洪水をおこし、閉山せざるをえなくなるのである。キャベツ畑人形の組立工場のように、シフトを増やせば、生産量が増すようになるのとはわけが違う。
 環境規則がきびしくなって、わが国の精錬工場は閉鎖を余儀なくされ、多くの企業は精錬を永遠にやめてしまった。すでに、アメリカでは精練所の不足状態に陥っている。全世界規模でもそうなりつつある。このような状況下で、精錬工場の風下にいた人は呼吸が楽になったであろうが、同じことはフェルプス・ドッジの株主にもいえよう。フェルプス・ドッジはたくさんの精錬工場を持ち、競合は以前ほど厳しくない。
 銅の需要は短期的には弱含みだが、将来は増加すると思っている。発展途上の国々は、旧ソ連から分離したところも含めて、電話回線をひくのに一生懸命である。今日、誰もが資本家になりたがっているが、資本家になるには電話が必要だ。
 従来の電話回線は何マイルもの銅線が必要であった。すべての発展途上国が携帯電話を普及させようとしないかぎり(そうした戦略をとることはまず考えられないが)、銅市場への積極的な参加者となろう。成熟した国より銅の需要が強く、銅の将来は明るいといえよう。
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 循環株で最も重要なポイントは、景気後退期に耐えられるだけの、健全な財務体質を持っているかどうかである。九〇年のフェルプス・ドッジの年次報告書それについての情報が記載されていた。自己資本が一六億八〇〇〇万ドルあるのに対して、負債は現金を控除すると三億二〇〇〇万ドルしかない。明らかに、倒産の危険性はなく、銅価格がどうなっても大丈夫である。フェルプス・ドッジが資金調達の必要にせまられることもないうちに、財務体質が悪い多くの企業が閉山し、事業をやめてしまうであろう。
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 九〇年の年次報告書に、キャッシュ・フロー六億三三〇〇万ドルと記載されているが、これは設備投資と配当支払を合わせた額より大きい。事業環境の厳しかった九一年でも、キャッシュ・フローは設備投資額を上回っていた。企業が稼ぐ金額のほうが使うより多いということは、常によいことだ。
 フェルプス・ドッジの鉱山や他の設備は、よく手入れされていた。コンピュータ業界のように、毎年新製品を開発したり、旧式の商品の処分のために多額の資金を使う必要がないため、フェルプス・ドッジは、鉱山の維持にたいした費用をかけていない。また、鉄鋼業界よりも資金がかからない。というのは低価格で生産する海外の競合他社に利益をもっていかれるだけのために、巨額の投資をして生産設備の更新をすることもないからだ。
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 九〇年から九一年にかけての銅の値段は、景気後退のため安かった。そして、こんな安値は永遠に続くはずがないと思ったので、銅価格の回復があればフェルプス・ドッジの株主が真っ先に恩恵を受けると確信していた。しなければならないことは、ひたすら辛抱強く待ち、配当を貰い続けることであった。
(弟14章 循環株は行ったり来たり)

○ ゼネラル・モーターズ
 八七年、私はそれまでマゼラン・ファンドのなかで一番ウエイトの高かったクライスラー、フォード等の自動車株のポジションを減らした。というのは、八〇年初頭から始まった自動車ブームが終わりに近づいていると感じたからだ。九一年、この年は景気後退一年目であったが、自動車株が高値から五〇%下落し、自動車のショー・ルームの様子がおしなべて暗く、自家用車・トラックのディーラーは時間つぶしにトランプをしているというありさまであった。このとき、私は再び自動車株に目を向けた。
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 自動車株を買うタイミグンを教えてくれる有効な指標は、中古車価格である。中古車ディーラーが価格を下げているということは、売れない証拠で、中古車が売れないときは、新車はもっと売れない。しかし、中古車価格が上昇しはじめると、それは自動車業界に春の到来を告げることになる。
 もっと信頼性のある指標としては、「自動車の繰り延べ需要」が挙げられる。
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 八二年に始まった自動車業界の好景気に、私は次のような結論を出した。(1)自動車株を保有するのにぴったりのタイミングである。(2)クライスラー、フォード、ボルボのほうがGMより儲かる。GMは業界第一の企業であるから、最も恩恵を受けそうだが、実際はそうではなかった。というのは、GMはエクセレント・カンパニーとの評判が高かったため、よい評判を築く努力をする意欲に乏しかった。GMは傲慢で、近視眼的、そして過去の名誉に甘んじていたが、他社はとてもよく経営されていた。
(弟14章 循環株は行ったり来たり)









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