フィッシャーの「超」成長株投資(Chapter9 さらに賢くなるための5don’t)

フィリップ・A. フィッシャー (著), 高田 有現 (翻訳), 武田 浩美 (翻訳) 2000年10月1日


○ Point1 行き過ぎた分散投資をしてはならない
 投資家は、分散投資のことをあまりにうるさくいわれてきた結果、ひとつの籠にたくさんの卵を入れるのを怖がるあまり、よく知っている企業にほんの少ししか資金を入れず、まったく知りもしない会社にあまりに多くの資金を投入しているのです。分散することなしに少数の銘柄に集中的に投資をするよりも、分散投資にこだわるあまり、よく知りもしない会社に投資をするほうがはるかに危険。
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 企業によって内部分散の度合いが異なるため、最大の投資成果を得るため最低限どのくらいの分散投資を行うべきかといった点については、一般的な公式やルールを立てることはできないのです。また、個々の銘柄ばかりでなく、業種間のバランスも考慮すべき要素のひとつです。例えば10種類の株を同額ずつ保有してはいるが、そのうち8種類は銀行株だという投資家は、適切な分散投資をしているとはいえません。逆に、その10種類の株がいずれも異なる業種に属しているとしたら、必要以上に分散をしている可能性があります。
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 〔ケースA〕(5銘柄ポートフォリオ)
 大型で安定したタイプの成長株だけを慎重に選んで投資する場合(Aタイプ)を想定してみましょう。このタイプの株としては、すでに述べたようにダウ、デュ・ポン、IBMなどが挙げられます。このような場合は、投資する銘柄は5つに絞るのが良いかもしれません。
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 ただし、自分が投資してる企業の内容をよく理解していることと、その企業の将来が少なくともこれまでと同じ程度に輝かしいものであることが前提です。

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 〔ケースB〕(10銘柄ポートフォリオ)
 次にここで、リスクの高い新しい企業とケースAで述べたような機関投資家好みの企業との中間に位置するような会社を投資対象に含める(Bタイプ)を考えてみましょう。これらの会社はおそらくワンマン経営者ではなく優秀な経営陣に率いられ、年間1500万ドルから1億ドルの事業規模を持ち、業界内に安定した地位を築いている企業でありましょう。
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 このBタイプに属する企業だけに投資をするのであれば、1社に対して資金の10%を割り当てるのが妥当だということになるのです。要するに、全部で10社に投資することになるのですが、しかしこの場合、もっとも大きなリスクをはらむ企業には資金の10%ではなく8%を割り当てるなど、それぞれのリスクの大小によって投資比率に変化をもたせなくてはなりません。
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 〔ケースC〕(20銘柄ポートフォリオ)
 最後に、3つめのタイプ(Cタイプ)の企業について説明いたしましょう。このタイプの企業は事業規模が小さく、投資の点から見ると、莫大な利益をもたらす可能性を秘めている一方で、場合によっては投入資金の大部分、あるいはすべてを失うリスクもはらんでいます。すでに他の箇所で指摘したとおり、このような企業の株をポートフォリオのなかに組み込む場合、それにどれだけの資金を割り当てるべきかは、投資家それぞれの状況や目的によって変わってくるため、一概に言うことはできません。とはいえ、このタイプの企業に投資する際には、次に紹介する2つのルールを守ることで無用なリスクを避けることができるはずです。ひとつめは、すでに述べたとおり、このタイプの企業には、失ってもかまわないと思える資金以外は決して注ぎ込んではいけないということ。もうひとつは、ある程度の規模で投資をしている人に当てはまるルールなのですが、このタイプの企業には1社につき当初の投資総額のうち5%を超える資金を投入してはならないということです。
 小規模投資家は、このタイプの企業への投資は見合わせたほうが賢明です。
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 わたし自身それほど細かく知っているわけではないのですが、株式公開当初のリットン・インダストリーズ社や、メタル・ハイドライズなどが思い浮かびます。しかしいずれにしても、このタイプの企業については、分散投資の点から忘れてはならないひとつの特徴があります。これらの企業への投資は、大きなリスクを伴うのと同時に極めて有望な未来像を提示しています。これは言い換えると、その2つのうちのどちらかが、やがては現実のものになるということです。事業に失敗するか、そうでなければ、売上を拡大し、経営に厚みを加え、競争力を高め、最後にはCのタイプを卒業し、Bのタイプに分類される企業に成長していくのです。

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 これまで述べてきたAからCまでの投資配分の比率は、分散投資をするうえで最低限守るべき基準、ないしは堅実なルールであるといえるでしょう。この配分基準を超えて大きな資金をひとつの企業に投じるのは、制限速度を超えて車を走らせるのに似ています。スピードを出せば出すほど目的地に早く着くことができるでしょう。しかしその際には、自分がいつもより注意深く慎重に運転しなくてはならないほど高速で走っているのだということを忘れてはなりません。それを忘れると、早く着くどころ、目的地に到着する前にお陀仏になってしまうかもしれないのです。
(Chapter9 さらに賢くなるための5don‘t)

○ Point2 戦争を恐れるあまり株を買うことまで怖がってはならない
 世界のどこかで国際的な緊張が生まれ、それが戦争の恐れや実際の戦争を生み出すたびに、その影響は株式市場にも波及することになります。これは経済的にはほとんど意味のない心理的な現象です。

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 戦争のたび株式市場に起こったことは、これまでいつも同じでした。20世紀を通して、唯一の例外を除いて、世界のどこかで大きな戦争が起こるたびに、あるいはアメリカ軍がどこかの戦闘に参加するたびに、アメリカの株式市場は必ず暴落を起こすのです。唯一の例外は1939年の9月に第2次世界大戦が勃発したときでした。しかしそのときも、中立国との軍需契約が膨れ上がっていたことを材料視して一時的な高騰が起こっただけで、その後の市場はいつもどおりに下落の道をたどり、数か月後にドイツが各地で勝利を重ねつつあるというニュースが入ると、とたんにパニックとでもいうべき様相を呈すようになりました。しかしながら、戦争が終わったあとは - 第1次世界大戦でも第2次世界大戦でも、さらには朝鮮戦争でも同じことが起こったのですが - たいていの株は急騰し、戦争の気配もなかったころに比べても格段に高い株価で取引されるようになるのです。さらにいうと、過去22年のあいだに大きな戦争の引き金ともなりえる国際危機が少なくとも10回発生しておりますが、いずれの場合も戦争の恐怖から暴落が起こった後に、危機が去ると市場は急反発を見せています。

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 近代戦争というのは、政府に対して常に税収をはるかに超えた支出を要求します。それゆえ、通貨の供給量が増大し、貨幣の価値は戦前よりも下落する結果となります。こうなると、同じ株数を買うのに以前よりもたくさんのドルが必要となります。つまり、典型的なインフレーションが起こるのです。

 言い換えると、戦争は常に通貨の価値を下げる働きをするのです。したがって、戦争が起こりそうなときや戦争が実際に始まったときに株を売って現金に換えようとするのは、理論的には極めて愚かなことなのです。実際にはそれと正反対のことをするべきでしょう。もしも投資家がある株を買おうと考えているときに、戦争の脅威から株価が暴落を始めたとしたら、恐怖心を振り払い、確固として買い始めるべきです。
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 しかしひとつだけ問題が持ち上がります。投資家は、どのタイミングで買えばよいかを判断しなくてはならないのです。
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 要するに、戦争がほんとうに始まるかどうか分からない段階では、ゆっくりと少しずつ買っていきます。そして実際に戦争が起こったら、大幅にペースを上げて買うようにするのです。
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 戦争では、特に近代戦争においては、敗戦国の通貨は完全に、あるいはほとんど価値を失ってしまうことが多く、株式もまた、その価値の大半を失ってしまいます。もしも仮にアメリカ合衆国がソビエト連邦に敗れたとしたら、わが国の通貨や株は紙切れ同然になってしまうでしょう。
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 戦争が起きたときや戦争の恐れのあるときに株を買う理由は、戦争それ自体がアメリカの株主に再び利益をもたらす可能性が高いからというのではなく、通貨の価値が大きく下がるにつれて、通貨によって表示される株の価値は必ず上昇するからです。
(Chapter9 さらに賢くなるための5don‘t)

○ Point3 ギルバートとサリヴァンを忘れてはならない
 金融証券界には、投資家の大多数にとってほとんど何の意味も持たない表面的な数字だけを並べた財務統計がいくつも存在します。
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 なぜこれほど多くの投資家が、たいした利益を得られない株を買い、将来莫大な利益をもたらしてくれる株を見逃してしまうのかが理解できるでしょう。「まだ上がっていない株」すなわち「出遅れ株」にばかり目を向けているうちに、株はどれも同じだけ上昇するのだから、すでに大きく上がってしまった株はもう上がらないだろうという妄想を投資家は無意識のうちに抱いてしまうのです。これほど真実とかけ離れた思い違いはありません。出遅れ株というのは、「しかるべき」理由があるからこそ上がらずにいるのです。過去数年のあいだに上がっていようと下がっていようと、いまそれを買うべきかどうかを決めるうえでは何の参考にもなりません。重要なのは、株価の大幅な上昇が将来的に期待できるような改革をその企業が行っているか、またはこれから行おうとしているかという点なのです。

 多くの投資家は、ある株を買うべきかどうか決める際に過去5年間の1株当たり利益(EPS)を重視します。これもまた、過去の株価を気にするのと同じようによく見られる誤りです。EPSだけを見て、その企業の4~5年前の収益に何らかの意味を見出そうとするのは、エンジンとその動力の伝わる部品とを繋がずにエンジンをかけて車を動かそうとするのに似ています。4年前や5年前のEPSが今年の4倍であろうと4分の1であろうと、それが分かっただけでは、株を買ったり売ったりするうえで何の参考にもなりません。繰り返していうと、重要なのは株価の背景にある企業の変化なのです。つまり、今後数年のあいだに何が起こるのかを知ることが何よりも大切なのです。

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 どれほど飛び抜けた成長企業でさえときには1年から3年のあいだ利益率が落ち込むことも珍しくないのです。利益率がこのような落ち込みを見せると、株価は急落することがあります。したがって、過去の収益の記録ばかりを重要視し、その企業が将来的に収益を伸ばしていける条件に十分な注意を払わずにいると、投資家は大きな代償を支払うことになりかねません。
(Chapter9 さらに賢くなるための5don‘t)

○ Point5 群衆に呑み込まれてはならない
 女性の洋服と同じく、株式市場にも流行があります。それにより、数年にわたって、株の持つ本来的な価値と株価とのあいだに乖離が生じることがあります。
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 1948年の株式市場では、いくら企業が利益をあげても株価にはほとんど反映されませんでした。過去に2つの大きな戦争が終わったあと、戦争から同じ年数が経った時点でひどい不景気が起こり株式市場は大暴落に見舞われました。それが一種の固い迷信を生み、同じような経済恐慌や株式大暴落が近いうちに必ず起こるのだという恐怖感に市場は支配されていたのです。1949年、ついに景気が下落しはじめました。しかしそれはちょっとした不景気にすぎず、人々のあいだに今回の戦後不況は小さいものだという認識が生まれ、今後、景気は下降するのではなく上昇に向かうのだということに証券界が気づくようになると、株式市場を動かす心理的な要因に決定的な変化が生じました。続く2~3年のあいだ、株価が2倍以上になったものもたくさんありましたが、これは市場の心理的な変化だけが原因でした。外部環境の好転により企業のファンダメンタルズが目に見えて改善されていた企業では、株価は2倍どころか、それをはるかに超える上昇を見せました。
 事実は同じでも時期が違えばまったく異なる見方をしてしまうという金融証券界の不思議な性質は、企業の株式を評価する場合に限ったことではありません。経済環境そのものが変化するのと同じくらい頻繁に、それに対する見方も変わってしまうので、ある特定の産業界や、その業界内の個々の企業に対する評価もすぐに変わってしまうのです。

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 金融証券界の見方が変化したために株価が変わってしまった業種は過去20年間にいくつもありました。1950年当時、薬品株は一般に化学株についていわれているのとほぼ同等の魅力を持つ投資対象と見られていました。各企業が見事な研究成果をあげ、国内の生活水準が安定した上昇を見せていたことも幸いし、薬品業界は途切れることなく成長を続けていたために、この業界のトップ企業は、化学業界の一流企業と同水準のPERで取引されるのも当然であると見なされていたのです。ところがそのとき、ある製薬会社の主力製品がトラブルに巻き込まれ、会社が大きな打撃を被りました。この出来事を境に、薬品業界というのは今日のトップ企業が明日も有力企業であるかどうか分からない業種なのだという考えが証券界の間に広まり、業界そのものに対する評価が一変してしまったのです。この一社を除いて、現実にはどの企業も何も変わっていないのに、市場の評価が変わったがために、業界全体のPERは大きく低下してしまいました。

 とろこが1958年になると、今度はそれと正反対のことが起こりました。この年、不況のなかで薬品の需要が縮小するどころか増大していた数少ない業種のひとつに製薬業界が含まれており、製薬会社の大半は最高益を更新しつつありました。これに対して化学業界は、大規模な事業拡大が完了した矢先に不景気に見舞われたため、過剰な生産力が仇となり、各社とも大幅な減収となりました。気まぐれな株式市場で薬品株のPERは大きく上がり始め、一方、化学株については、思っていたほど魅力的な業種ではないという空気が広がり始めたのです。これは単に金融証券界における評価が変わったために生じたのであって、ファンダメンタルズや企業の内部情報については何の考察も加えられてはおりませんでした。

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 株を買う際には、その業種と企業の両方について市場がおおむねどのようなイメージを抱いているかを事実と照らし合わせて分析しなくてはなりません。その業種や企業に対して金融証券界が実態よりもかなり低い評価を与えているのであれば、群衆とは別の道を行くことで投資家は格別に大きな収穫を手に入れることができるかもしれません。逆に市場で人気化している企業や産業に投資するときには特別に慎重にならねばなりません。
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 株式市場にありがちな特定業種への人気の集中や事実の誤認は、数か月あるいは数年にわたって続くかもしれません。しかし、それも結局いつかは事実に破れ姿を消すことになるでしょうし、さらには、人気化していた株がその反動でしばらくのあいだ行き過ぎに思えるほど株価を下げることも少なくありません。多数派の意見を透かして、その向こう側にある真の真実を見つけ出す能力こそが、株式投資の分野で大きな成功を収めるための条件なのです。しかし、そのような能力を身に付けるのは容易なことではありません。というのも、周囲の人たちからいろいろな意見を聞かされるうちに、人はそれに強く影響されるようになるからです。しかし、次のような点を心得ていれば、多数派に呑み込まれず正しい道を行くために大きな手助けが得られます。つまり、株式市場というのは、大手の有名企業が絡んでいたり、前触れとして派手な出来事が起こったりするのでもない限り、たいていは根本的な状況の変化に気づくのが遅いのです。
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 株式市場の評価が変わり株価が高騰するよりも前の段階で企業の状況を把握することが、投資を始めたばかりの人にとって、群衆についていくのではなく自分自身で考えられるようになるためのもっとも重要でもっとも簡単な方法の一つなのです。
(Chapter9 さらに賢くなるための5don‘t)









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