決算書がみるみる読める本―できる人は数字がわかる!(第2章 企業の”質”を見極める!(貸借対照表) )

成田 青央 (著) 2006年2月


○ 決算数字から見えてくる真実−決算書といえばこの3つ
 決算書というものは、いくら操作しても、必ず足跡が残ります。ちょっとした数字の変化やバラツキを目で追いかけるだけで、真実が透けて見えてきます。
 素人とプロの違いは、ただ数字を見るだけで終わるのか、それとも決算書の向こう側にある会社の様々な事情まで読み取れるのかの違いです。この意識されあれば、そこらの経営者より立派な分析ができるようになります。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 悪名高き債務超過は貸借対照表のココでわかる! −企業の「安全性」が見えてくる
 貸借対照表(別名をバランスシート=B/S)は、ある時点における会社財産の姿を示しています。つまり「会社の健康診断書」のようなもので、健全性や安全性が表示されているのです。
 左半分が「資産の部」となっています。つまり営業活動をするために必要な財産がどれだけあるかが分かります。企業にとっての肉体(骨肉)といえます。
 今度は右側です。右上の段には「負債の部(借金)」、左下には「資本の部(自分の資本金)」とあります。骨肉にエネルギーを与える血液(お金)です。貸借対照表の全体像は、まず右下にある利益(当期純利益、もしくは当期純損失)で経営能力のイメージをつかみます。
 「左側から右側」をザッと見て、ボディバランスを確かめます。すると、左側にある「企業の資産(いまある財産のすべて)」が、右側の「借金」で賄われているのか、「自己資金(返済は不用な資金)」で買ったのか、その割合が見えてきます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 悪名高き債務超過は貸借対照表のココでわかる! −債務超過はこんな状態
 「流動資産」から「流動負債」を引いた残りが当面の運転資金と見られます。さあ、もしここがマイナスになっていたらどうでしょうか。
 これでは手持ちの自由資金から、支払いや返済が出来ない状態になります。残る手段は借金ですが、いくら寛容なあなただって、この図のような企業にはおいそれと貸せる状態ではありません。
 こうして「手持ちの自由資金」が「支払い額や返済額」を超えた状態は、「お尻に火が点いた」と見ていいでしょう。
 普通はこうなる前に何らかの手を打ちます。例えば大きな資産の売却、追加融資などが考えられますが、最悪の場合は決算の粉飾などを行う企業もあります。
 それが上手くいかず、赤字が続くと、「資本の部」がマイナスに落ち込みます。赤字が積み重なり、資本までを食いつぶし、総資産額を超過した状態を「債務超過」といいます。人間でいうと、心筋が小さく痙攣して、血流が遅れない危険状態です。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 「黒字倒産」を見抜く− 「黒字」だからと安心できない不思議
 帳簿では多くの売上や売掛金はあるけど、手元の現金は少しだけ。これでは大きな黒字を出したまま、支払不能となってしまいます。
企業の健康度は、決算が黒字でも、中身を見ないと全く分からないのです。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 貸借対照表を読むときの鉄則−決算書は「下から読むべし!」
 貸借対照表は、病院で使われるカルテと同じで、はじめて見ると、用語と数字の意味がまるで分かりません。しかしカルテだって、すべてを読む必要はなく、現在の診察結果が分かればひと安心です。
 それは決算書も同じで、「下から読む」という基本を知れば、厄介そうに見えるものも素直に読めますし、企業イメージも3分で把握できます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 貸借対照表を読むときの鉄則− その他にも面白い情報が盛りだくさん
 「資産の部」に剰余金というものがあります。これは利益のうち、ムダ遣いをやめて企業内部に溜め込んだものです。優良企業はこの「剰余金」が豊富にあります。
 「負債の部」にある借入金や支払手形も、経営が傾くにつれ、奇妙な動き方をします。会社もできるだけ隠そうとしますが、下手に隠すと、帳尻あわせでほかの数字がガクンと変動します。動きが極端な場合はもちろんですが、もうひとつ、「動きがほとんどない」というのも相当なキナ臭さがあります(粉飾の香りがプンプンです)。
 左側の固定資産も、発展途上の企業と傾いた企業では、数値が大きく動きます。いわゆる「設備投資」ですが、発展途上の企業は、店舗用地を買ったり販売設備を揃えたりするので、数字がピョンと上がります。一方、傾いた企業も数字が跳ねますが、こちらは逆の動き。資産を売却しても運転資金に当てるので、数字が減ってゆきます。ただ、ムダな資産を売却するのは適切ですので、いつ、どんな資産が動いたのかを調べると、たちまち健康度が分かってきます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 剰余金のヒミツ−剰余金の分析だけでも会社の強さがわかる!
 企業は、儲けた利益を分配しなければなりません。利益があったら、経費や税金を差引いて、自由になる利益が残ります(みなさんの給与は経費に含まれますが、これも利益によってきめられます)。この自由な利益は、出資者である株主に配分されるほか、一定の積立金・準備金(資本の部に計上)に回されます。商法では、一定額のお金を「いざというときに貯めておきなさい」という制度を設けています。そこで「○○準備金」とか「○○積立金」などが積まれているのです。
 健康な企業の場合、さらに余りが出るのが普通です。それが「剰余金」として蓄積されてゆくのです。
 つまり開業以来、ずっと積み重ねられてきたもので、これが毎年着々と増えているということは、まさに健康体である証です。経費削減が上手いのか、財テクが冴えているのかは調べる必要がありますが、細かいことはさておいても、その企業が「利益体質を確立している」というウマミがはっきりと見えてきます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ その企業、果たして生きているのか死んでいるのか−流動資産と流動負債で見えてくる安全性
 流動資産と流動負債は、どちらも1年以内に決済という、共通の性質を持っています。そこでまず、両者を対比する「流動比率」という重要指標が計算できます。
 流動比率が平均より低いと、支払能力に危険信号が灯ってきます。つまり、手持ち資金では負債を決済できない恐れがあるということです。この指標はかなり便利なので活用してみてください。
 ①「売上債権回転比率」は、回転数が高ければ、売上債権の回収能力が高いことを示します。つまり「てばやく運転資金にできる仕組みづくり」ができているということです。
 ②「買掛債務回転比率」は、回転数が高いほど、早く支払っているという状況を示しています。つまり支払能力が高い(資金繰りが上手い)といえます。その一方、ムリな支払いを押し着せられている可能性もあるので注意が必要です。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 預金と土地があれば「金持ち」といえるか−企業の安全性を資産・資本からチェック!
 企業体には、業種や規模に合った、適切な財産・負債が存在しなくてはなりません。両者は常にバランスしており、どちらかが傾けば、もう一方にしわ寄せがくる仕組みです。つまり贅沢三昧で、お顔がツヤツヤであっても、実は深刻な高血圧や高血糖のほか、オシリに火がついているなんてことは普通にあるのです。
 財産が増えるということは、それに見合った資金が減ったはず。もし資金が減らない場合は「借金で賄った」か、あるいは粉飾か。
 貸借対照表の左側、「資産の合計」が大きな企業は、それだけ「儲けるための設備と財産」を持っているお金持ちと言えます。ところがフタを開けると、「勘定合って銭足らず」や「ムダな投資で火の車(不動産や株式の価値激減)」であることも。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 健全経営の会社と乱暴な会社−企業の安全性を資産・資本からチェック
 暴飲暴食は、身体に悪いほか、お財布の中身も不安にさせます。それが企業体でいうと、「固定資産の部(表・左側下段)」と「資本の部(表・右側下段)」に現れます。
 まず「固定資産合計」と「資本の合計」を見比べて、資本合計内で賄えているかを見ましょう。それでない場合、借金の額が多くなっているはずです。さらに「なにを買ったのか」を調べると、土地などの不動産や株式ではないでしょうか。
 ただし、日本社会は借金経営が多いので、これだけでは問題になりません。むしろ、買った物を有効に使い、売上を伸ばしているかが問題となります。
 それを調べる物差しに、「固定資産回転率」があります。いまある資産を、どれだけ有効に使っているのかが分かる指標です。回転数が少なければ、ムダに寝かせている(経営が下手、投資の失敗)が見えてきます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 在庫がお金を食いつぶす−在庫と棚卸資産
 在庫の数とは人体でいえば中性脂肪のようなものです。つねに適切に抱えてないと、いざというときに生き抜けません。ところが、いざダイエットとなると、なかなか痩せられないのはご承知の通りです。企業体も同じで、在庫を抱えすぎるとスリム化が難しいだけでなく、リバウンドすらあり、せっかく稼いだ利益も食い潰してしまうのです。
 在庫が増えるということは、①商品に人気がなくて売れていない、②仕入れ部門と営業部門の連携が悪い、などが考えられます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 在庫の適正を調べてみましょう 商品回転率/棚卸資産回転率−在庫と棚卸資産
 企業にとっての「仕入れ」とは、安いときに、多めに買っておくのが基本です。なにしろ材料や商品が不足したら大問題。ところが、在庫が増大すれば利益を圧迫します。あなたならこんな会社に魅力は感じないでしょう。
 商品在庫の適正値は、商品回転率(棚卸資産回転率)で調べます。小売業の場合なら20回転くらい、製造業なら12~20回転くらいが適正目安とされています。
 ところでデザイン業、保険代理店など、在庫が存在しない企業もあります。この場合は、売掛債権回転率などを使って健全性・安全性を調べましょう。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 銀行の驚くべき実態−いい借金と悪い借金
 さて、「自己資本比率」という言葉をみなさんも耳にしたことがあるでしょう。ニュースで大銀行の破綻が次々と報じられたとき、ひっきりなしに指摘されていました。
 自己資本比率とは、「負債・資本の合計」のうち、資本合計の占める割合を示しています。もちろん自己資本が多い方で安全で、その目安は40%以上とも言われます。しかし、これは海外寄りの基準で、日本ではその半分ほどでも安全と見られることが多いのです(もちろん40%あったら素晴らしいです)。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ これは簡単!計算いらずの借金チェック!−いい借金と悪い借金
 貸借対照表の右上段(負債の部)をみると、流動負債に「短期借入金」、固定負債に「長期借入金」が表示されています。
 「短期借入金」とは、1年以内に完済すべき借金です。その多くは半年から1年のものを活用します。一方、「長期借入金」は、3年から5年ほどで完済するものです。つまり、かなりの猶予があるかわりに、利息が高くなります。
 短期借入金は、一般のカード借入れと同じ性質で、ちょっとした物入りや運転資金に使いやすいです。一方、長期借入金は、住宅ローンのようなもので、企業も土地・建物・機械設備など、長い生産活動を支えるものに使用しています。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ なんでも資産に計上しちゃえ!−資産の内容に注目
 さて、ここで面白い実務の仕組みをご紹介しておきましょう。
 経営に直結しない、ほとんど無価値なものを、どうして計上するのでしょうか。
 まず第一に、法律が「そうしなさい」と規定しているからです。
 そこで企業のなかには、「なんでもかんでも資産に計上しちゃえ」と躍起になる人々がいます。つまり、見た目の「資産合計」が増えると、なんと債務超過を隠せるのです(あるいは債務超過になるまでの余裕が増える)。
 一種の、合法的な粉飾決算とでもいいましょうか。それでも大抵は焼け石に水で、あくまで補助的に使われます。いざというとき(経営者になった場合に)、知っておくと便利ですね。
 そして「その他繰延資産」も有効で、これは減価償却の対象になるので増やす傾向があります(つまり経費で落とせる)。利益調整や税務対策に有効なので、ちょっとした小技として実務で活用されているのです。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )

○ 「憶測」ではなく「合理性」で推理する−貸借対照表を推理せよ!
 決算書の多くは、パッとみると嫌気がさします。これはあなただけではなく、プロだって目がチカチカしてくるものです。
 ただ、そもそもは、「誰にでも分かるように」作成されたものですから、嫌悪感さえもたなければ、すぐに慣れてきます。はじめは苦手かもしれません。が、大多数の人が苦手だと思い込んでいるからこそ、使い勝手があるものです。
 「もう、上司や取引先の口先には騙されないぞ!」
 まずはそういう意気込みで取り組んでみてください。実際、数字の見方を覚えたら、部長クラスとなら対等にやりあえるはずです。飲み会の席で、おかしな数字をチラリと出せば、間違いなく相手はビックリするでしょう。
 これまで見てきたように、あの厄介な貸借対照表も、ザッと見るだけでも、意外で奇妙な事実が浮かんできます。
 「借金がいきなり増えた」、「現金が激減している」、「固定資産がバカみたいに増えている」などは、誰が見てもすぐに分かりますね。その理由を想像しながら、他の項目と比べてゆけばいいだけです。もし1年分の資料では分からなければ、数年分の資料で検討します(通常は3年分ぐらいあるといいでしょう)。そうすれば、パッと見ただけで「おやおや」という事実が見えてきます。
(第2章 企業の“質”を見極める!(貸借対照表) )








← 第1章                                                       第3章 →
トップページ